「きょう四十九日なんですよ」衝撃の“告白”に言葉を失った。鬼木監督の溢れんばかりの情熱。人として学ぶことがたくさんあった【元番記者コラム】

 最近、YouTubeでイタリアのサッカー討論番組を見ることが多い。元選手の鋭い分析が聞けるなど参考になる意見が多いからだ。

 そのなかで、セリエAや代表の指揮を務められるUEFAプロライセンスを取得済みの元イタリア代表FWクリスティアン・ヴィエリ氏(51)が、こんなことを言っていた。

「監督? オレはやらないよ。選手は週に3~4回練習して、試合をして大金がもらえるよな。それに比べて監督は四六時中、チームのことを考えなきゃいけないんだぜ。休めないよな。しかもチームが勝ったら選手の手柄、負けたら監督の責任と、こんな割に合わない商売はないだろ。監督は世界一、難しい職業だ。何より24時間サッカー漬けなんだからな」

 少々こじつけに聞こえるかもしれないが、この言葉を聞いて、10月16日に今季限りでの退任が発表された川崎の鬼木達監督(50)の存在が頭に浮かんだ。

 鬼木監督がフロンターレにもたらした功績は、今さらここで語る必要もないだろう。私は幸運にも、悲願の初タイトルとなった17年の奇跡のリーグ優勝から5年間、実に6つのタイトル獲得に番記者として立ち会わせてもらった。

 当然だが、オニさんの一日に密着させてもらったこともなければ、チーム内に潜入して仕事を間近で見させてもらったこともない。ただ、何度も交わした会話の中で、オニさんは24時間サッカー漬け、いや24時間フロンターレ漬けだったと強く感じ取ることができた。

 練習を終え、クラブハウスから帰宅の途に就くのは、いつも午後8~9時過ぎ。遅い時はさらに深い時間になることもあったようだ。聞けば、朝4時に起床し、じゃれたがる愛犬を横目に自チームの映像や、対戦チームの映像をチェックしていたという。それは数年経った今も絶対に変わっていないはずだ。
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 昨年11月18日にFC東京の小平グランドで行なわれたFC東京との練習試合後には、衝撃の“告白”を受けた。

「実は最近、親父が亡くなって、きょう四十九日(法要)なんですよ」

 言葉を失った。逆算すれば、9月末頃に他界されたことになる。その時期は、23~24年シーズンのACLグループリーグもスタートし、日程が過密だったタイミング。長年、闘病されていたとのことだったが、オニさんのことだから、それまでも忙しい合間を縫って、頻繁に実家に帰っていたことは想像に難くない。

 そのなかで常に気丈に振る舞い、そしてチームのために変わらず全身全霊を捧げていたことは、オニさんにとっては当然のことだったかもしれないが、頭が下がる思いだった。

 それから21日後の国立競技場で、鬼木監督は自身7個目のタイトルを掲げていた。PK戦の末に柏を破り、2度目の天皇杯制覇。きっと天国のお父さんも誇らしくその姿を天国から見届けていたことだろう。

 強い信念とサッカーに対する溢れんばかりの情熱。そして裏表がなく、誰にもこびない実直な性格。指導者としてはもちろん、オニさんからは一人の人間として学ぶこともたくさんあった。

 退任が発表され、「まだシーズンは終わっていませんが、フロンターレで長年、お疲れ様でした」と声をかけると、「ありがとうございます。残り試合も頑張ります!」と返ってきた。退任が決まっても、最後まで力を抜くことは絶対にない。常に全力。それがオニさんの真骨頂だ。

 フロンターレで目標だったアジア制覇は叶わなかったが、オニさんならきっと、どこかでその夢を叶えるはず。個人的には将来、日本代表を指揮する姿をぜひ見てみたい。

取材・文●垣内一之(スポーツニッポン新聞社)

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