スタッフを電話で呼びつける姿はまるで“上司”…超高級シニアマンションで幅を利かせる理事会メンバーらが自画自賛する“施設への貢献度”

高齢者向けマンションの草分けと言われるグループが手掛ける熱海市の超高級老人ホーム「熱海レジデンス」(仮名)。眼下に相模湾を臨む眺望が人気の同施設は、分譲型のシニアマンションだ。住人らは「メンバー様」と呼ばれ、管理組合の理事会はあらゆる形で施設運営に関与しているという。自らの働きを誇らしげに語る理事会メンバー達が、最もアピールしたい“功績”とは…

『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

“メンバー様”の代表、理事会役員たち

「こちらへどうぞ。錚々(そうそう)たるメンバー様に集まっていただきましたので」

杉山氏(仮名、同施設を運営する会社の営業部次長)はそう言って、居住者インタビューを行うための応接室に案内してくれた。

錚々たるメンバー様とは、どういう意味なのかと思ったが、きっと輝かしい経歴を持った居住者たちが集まっているという意味だろうと、勝手に想像を膨らませていた。

インタビューでは居住者の本音などを可能な限り聞き出したいと思い、スタッフには席を外してもらうよう頼んだ。そうして行われたのが、徳川さん(仮名)を始めとして集まってもらった“メンバー様”たちへのインタビューだ。

テーブルの向かいには、徳川さんご夫婦に酒井栄太さん(仮名)ご夫婦。石川康弘さん(仮名)と、井伊佳代さん(仮名)の6名。

全員、この施設に住んで5年から7年になるという。

徳川さんは管理組合の前理事長だ。徳川さんの妻は現在の副理事長で、以前はメンバー会の会長を務めていた。メンバー会とは、この施設で行う各種イベントなどメンバーの交流会を主催する居住者の会だ。

管理組合は、一般的なマンションの管理組合と変わらない。区分所有者、つまり部屋の持ち主が管理組合に加入することが区分所有法で義務付けられているのだ。酒井さんも過去に管理組合の副理事長を務めたことがあり、石川さんは現在の監事だ。そして井伊さんは、これまでメンバー会の役員を務め、現在はメンバー会の監査という立場だ。

つまり、ここに集まった全員は、管理組合における理事会や、メンバー会の役員経験者ということになる。

「女性軍は結構楽でしょ?」

この施設のいい点を私に説明するため、徳川さんは両脇に座る“女性軍”にそう話を振った。三人の女性は、全員首を縦に振り、「はい」と短く答えた。女性にとって、ここでの生活は何が楽なのだろうか。その理由について徳川さんはこう続ける。

「食事は出るわ、お風呂は洗わなくて済むわ。毎日温泉入って、掃除も希望すれば有料ですがやってくれる、と」

徳川さんは、異論はないねと言わんばかりに女性たちを一瞥(いちべつ)した。食事の用意や風呂掃除は女性の仕事だという前提の会話に少々ひっかかりを感じたが、当の女性たちは皆同意している様子だった。

今時の社会では、そうした発言をした途端に「考えが古い」と周囲からお𠮟りを受けてもおかしくない。だが、そんな徳川さんの発言を誰もが素直に受け止めている。

高齢者だけが集まった閉鎖的な住空間に根付く独特の世界―。

ここには、そんな特異な雰囲気が漂っていた。

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事あるごとにスタッフに電話をかけ…

熱海レジデンスは全165戸、約180名の居住者がいる。平均年齢は82歳。先日まで101歳というご高齢の方もいたそうだが、既にグループの系列施設に転居したという。最も若い人は56歳だが、常にここに住んでいるわけではないそうだ。別荘のように利用する、いわゆる非常住者である。常住者の最少年齢は70歳くらいだという。 

居住者は女性のほうが多く、その中でも独身者が多い。ある居住者は「やっぱり女性のほうが平均寿命が長いですからね。二人で入ってきても男のほうが先に死ぬんですよ」と話す。いずれも取材当時の数字だが、今もそれほど大きくは変わっていないだろう。

「共用部分の面積はね……」

細かく施設の説明をしてくれる徳川さんが、言葉に詰まった。共用部と居室の専有部がどのくらいの割合かを教えてくれようとしていたときだった。すると徳川さんはスマートフォンを取り出して、どこかに電話をかけ始めた。

「調べたらまた教えてください」

施設の責任者へ正確な割合を問い合わせてくれたのだ。上司が部下に「正確な数字をすぐに調べて報告しなさい」と命令するような姿と重なった。その施設の責任者によれば、共用部分の面積は37%。残りは居住者の占有部分だそうだ。

各居室に緊急コールや人の動きがないと反応するチェックセンサーなどが完備されているのは、どの施設も同じだ。ハードの面では、これまで取材してきた高級老人ホームとさほど変わりはない。

こうして一通り施設の概要は理解できた。すると再び徳川さんが、室内の温度を調整しに来てほしいとスタッフに電話をかけ始めたのだ。万全の環境で取材に臨もうという意気込みか、それとも単に面倒な高齢者なのか。

スタッフから、要求の多い居住者だと思われていないかと心配にもなった。