入居を即決「決め手は“景色”」
「我々はオーストラリアに住んでましてね。そろそろ歳もとったし、肉も食い飽きたから、お茶漬けでも食べたいなと」
そう入居のきっかけを話すのは酒井さんだ。今回、ご夫婦で取材に応じてくれた。もともと、技術職として海外生活が長かったそうだ。
「向こうに住んでいるときに、次に住む場所を探してましてね。10カ所くらい見たなあ。兵庫のほうから栃木のほうまで、ずうっと見て。年に2回くらい日本に帰ってきてたので、2、3カ所ずつ見るような感じで。それで、ここを見学したら、海の景色が気に入って。それに温泉も。その2つを見て、ここに決めた感じですね」
そこへ仕切り役を買って出てくれている徳川さんが「オージービーフは間違いだったか」と言葉を挟み、笑いを取っていた。オーストラリアに絡めたジョークのようだ。ただ、どの点が笑いどころなのかはよくわからなかった。
続いて発言したのは石川さんだ。入居のきっかけについてこう話す。
「私の場合はね、たまたま伊豆に別荘があって。自宅が神奈川の藤沢なんですが、行き来するのに時間がかかるので近くがいいね、と。それに、もともと私、熱海の出身なんでね」
そこに再び徳川さんがこう補足する。
「この方の、おじいさんが熱海で旅館を経営していてね」
すると石川さんは照れくさそうに、「もう、ずうっと昔の話ですから」と遮(さえぎ)り、こう続けた。
「ここは比較的、他のシニアマンションに比べて少しスペースが広いんですね」
再び徳川さんが言う。
「大きい所で110数平米という部屋があるけど、だいたい80平米後半くらいです」
徳川さんの妻も、「夫婦で暮らすのには十分な広さですよね」と同調した。
パンフレットには、1LKの3タイプが掲載されていた。どの部屋にも、10平米以上のバルコニーが付いている。
今度は、一番端に座っている井伊さんが話す。
「私もたまたま……というか、自分の母親を看(み)ていまして。母親を子供たちが面倒見なくちゃいけないじゃないですか。そういうのを見て、ああ、自分はそういう風にはなりたくないなと思って。それで夫と住居を探していたら、たまたまこちらに来て、12階からの借景がすっごいよくて。わぁ、もうここがいいと決めたんです」
彼女の夫は今日、仕事のために出席できなかったという。徳川さんによれば、井伊さんのご主人は霞が関の元官僚だ。夫が転勤族のため、フィリピンや北海道などでも暮らしたことがあるという。
石川さんを除いては、景色を見た瞬間に購入を“即決”したのだった。
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用意した資料で“功績”を猛アピール
徳川さんを中心にした連携プレーで発言する全員を見ていると、理事会メンバーたちの団結力の強さのようなものを感じた。次第に彼らが忠義を尽くす“徳川家臣団”のようにも見えてきたのだ。
一旦話をまとめるかのように、徳川さんがこう話す。
「ここは面白いですよ。理数科系の人が二人、僕は文科系で。井伊さんもどちらかというと理数科系か。それが一緒に理事会をやって。僕は金融機関の出身だけども、金融機関ってテリトリーが決まってるじゃないですか。ここはいろんな人がいて、英知ってほどじゃないけど、まあ、知恵を出し合っていろんなことをやってきました」
そう言ってA4用紙で3枚の資料を私に差し出してきた。実は徳川さんたちが、今日最も私に伝えたいことがあるというのだ。それが、この紙に記してあるという。
やってきたこと
駐車場問題
WEB systemの構築
カーペットの張替え
(生活)満足度調査の実施
管理費・修繕積立金の適正化
災害対策
補助電源の強化(災害時に補助電源に切り替えられるよう)
土石流対策と温泉の供給
コロナ対策
エレベーター更新
温泉供給の安定化管理会社に「おんぶに抱っこ」では何もはかどらない。Ex.災害対策 etc.
――やってきたこと
A4用紙には、そんなタイトルが印字されていた。理事会がこのシルバーマンションを、どう変えてきたかという“実績”が、箇条書きで列挙されている。
例えば、〈駐車場問題、防犯カメラ、WEB Systemの構築、カーペットの張替え、(生活)満足度調査の実施、管理費・修繕積立金の適正化、災害対策、コロナ対策、温泉供給の安定化〉などである。その紙を読み上げながら徳川さんが言う。
「今一番私が言いたいのは、世の中で修繕積立金が足んないとかってマスコミが騒いでるじゃないですか。私は5年間理事長をやったんです。そこで、管理費と修繕積立費のバランスを石川さんが計算してくれて解決しました。石川さんは数字が得意ですからね。次回2028年の大規模修繕には、ほぼ費用が積みあがっちゃうんです」