サイモン&ガーファンクルの来日公演が終わった翌月、NHK教育で『日本を変えた来訪者2 ビートルズ』という番組が放送された。66年に行われたビートルズの来日公演がどのようなものであったのかを、当事者たちの証言で明らかにするとともに、単なるロックコンサートの枠を超えたこのイベントが日本の社会及び若者たちにどのような影響を与えたのかを検証していくというもの。ナビゲーターはビートルズ・シネクラブの会長浜田哲生氏が務めた。

NHK教育で放送された『日本を変えた来訪者』


フィルムコンサートで購入した日本公演パンフレット

番組冒頭は『シェアスタジアム』の「キャント・バイ・ミー・ラヴ」の映像が使われたが、ビートルズの映像はほぼなく、エンタメ感は皆無。NHK教育での放送ということもあり、インタビュー映像で構成されたその視点はアカデミック、切り口はジャーナリスティック。社会学的要素の多い見ごたえのあるドキュメント番組に仕上がった。来日公演についての検証や考察は、その後テレビ番組や書籍、映画など様々なかたちで行われるようになるが、その先駆という意味でこの番組はとても重要であったといえる。

正確な放送日時は6月8日、夜8時から。高校一年だったわたしは、入学時から数か月だけ入っていた部活(野球部)の練習が終わるやいなや速攻で帰宅し、テレビの前にかじりついた。ビデオで予約録画していてもやはりリアルで観たかったのだ。

前半は主に武道館公演の模様とホテルでの騒動についての検証。有名人関係者では、公演の前座を務めたザ・ドリフターズのいかりや長介が会場の異様な様子を、ホテルで一緒にすき焼きを食べた加山雄三はそのときの様子とメンバーのキャラクターを、カメラマンとして公演に関わった浅井慎平はどのようにして4人をカメラに収めたのかを詳細にコメントしていく。どれも初めて聞く貴重な証言ゆえ、耳をそばだてて聞いたものであった。同様の話はこれ以降、折に触れて聞かされ読まされていくのだが、この頃はまだ証言者の語り口に初々しさがあったように思う。


ビートルズの宿泊先だった旧ヒルトン、現キャピトルホテル東急。2006年撮影

ホテル周辺で起きた騒動については、ビートルズの宿泊先となったヒルトンホテルの従業員が貴重なエピソードを残している。駐車場からプレジデンシャルスイートまでの導線や室内でのメンバーの様子、ホテルを取り囲むファンやマスコミの状況など、どれも興味深いものだが、なかでも驚いたのは、スタッフの一人によるホテル内のバーで4人が演奏したという証言。なんでも、夜遅くお客が少なくなったころ、ジーンズ姿の4人が来店して短時間ではあるが曲を演奏したというのだ。しかも自分たちの方から「演奏させてくれ」と言ったという。その人は間近でその演奏を聴いたという。果たしてどんなステージで、何を演奏したのか、妄想を巡らせた。

番組後半は、ビートルズの来日を当時の若者はどのように捉え、なにを感じ、どう行動したのか。あるいは日本がどう変わっていったのかという点からビートルズ来日の影響を浮き彫りにしていった。「そもそも日本人がロックをやること自体間違っているんだけどそれをやらせてしまうくらいビートルズは凄かった」(財津和夫)、「ビートルズはシングルで大衆をつかみアルバムで実験をしていた」(石坂敬一)という旨の発言のほかにも中学校の授業でビートルズを弾かせている音楽の先生、ビートルズに影響されてギター修理業を営んでいる男性など、一般人のコメントも心に刺さるものが多かった。

番組の最後は、「ビートルズの来日公演のとき15歳だった少年少女はいま30歳を超えた。これからの世の中はビートルズに熱中した彼らが中心となっていく」という旨のナレーションで締められた。

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日テレで生放送された電リクビートルズ特番


羽田空港からキャデラックに乗り首都高速でホテルへ

この年、ビートルズを取り上げたテレビ番組で無視することができないのが、それから3か月後の9月28日に日本テレビで放送された『ザ・ビートルズ!あなたが選ぶ不滅のベストヒット20』という番組だ。なんと、夜7時半から9時までの生放送で、放送中は電話でリクエストを受け付け、それをカウントダウンで発表してしまおうと言うものだった。

ラジオならわかるがテレビで可能なのか。映像素材はあるのか、と余計な心配をしてしまうも、司会の徳光和夫と福留功男がコンビ芸と力業で音楽バラエティとして成立させ、しかもスタジオとアルタ前、六本木のキャヴァーンクラブを結んだ三元中継によって『ズームイン朝』のような情報番組にも仕上げていた。

余談だが、その前日だったか2日前だったか、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブから電話があり、この番組にギャラリーとして参加してもらえないかと依頼された。公開生放送の会場となるスタジオアルタに来て番組を盛り上げてくれないかという。行きたいとも思ったが、気乗りせず断ってしまった。確かに番組を見ると、客席が映っていて、自分もあの一部になったのかと思ったりした。

映像的に注目したのは66年の日本公演のライブ映像。日本テレビということもあり、「ロックンロールミュージック」「ノーホエア・マン」「イエスタデイ」などの6月30日版の映像がカウントダウンの中にふんだんに織り込まれた。わたしはこのとき日本公演の映像を初めて見たのだが、ほかにも「ミスター・ムーンライト」から始まるドキュメントの部分もほぼフル尺で放送してくれたのがうれしかった。