「JTCの限界に立ち向かう」富士通の実践に学ぶ、「個人と組織の両面から変革する」キャリアオーナーシップの神髄

残る問題は、「投資家への説明」と「管理職のあり方」

今の平松さんの課題は、多くのCHROが感じていることだと思いますが、特に投資家への説明に当たっては、人材への投資がダイレクトに売上や利益に結び付くものではないという共通認識を築いていくべきでしょう。

――『進化するキャリアオーナーシップ』より

富士通CHRO(Chief Human Resource Officer(最高人事責任者))である平松さんと田中教授の対談において、田中教授はこう投げかけました。

証券取引所に上場して資金を調達しているJTCにとって、非常に重要なのが「投資家(株主)」という存在。「企業は株主のもの」という考え方もあります。

富士通が行っている人事制度改革のような取り組みは、工場をつくるとか新しい技術を開発するなどの取り組みと違い、「企業のサービスや価値の向上」に直結するわけではありません。投資家からは、「社員を甘やかすために大切な資金を使うなんて」といった見方がされる可能性も……。

JTCのような組織が人事制度に予算と人手を振り分けていくには、田中教授の言うように、「人材への投資の意義」をしっかり説明できなければならないという課題が引続き残っているのですね。

加えて、「管理職のあり方」という問題もあります。

本書では、組織としての取組みと、新しい制度を利用してキャリアオーナーシップを駆使していこうとする社員たちの姿が多数紹介されていました。

しかし現実の職場ではおそらく、組織と個人のパイプ役となる「管理職」がどう行動するかということがとても重要になるはずです。

マクロな視点でルールや制度をつくっていく組織と、一人の人間としていろいろな思いや夢がある個人。その間をしっかり橋渡しできる管理職のマインドセットを変えていくこと、教育していくことが、多くのJTCにおいて求められていると思います。「現代の管理職は“無理ゲー”」なんて言葉も聞くようになりましたが、多様化する組織において管理職の存在意義やあり方は、不要論も含めてもっと見直されていいのではないでしょうか。

「滅私奉公する代わりに、抜群の安定感と報酬を得る」

そんなJTCのあり方が、少しずつ変わっていっています。組織と社員がお互いを信頼し、その上で自律するという相乗効果を生むことができる企業が、もっともっと増えていくことを願っています。