口の状態が良いとメンタルを健康に保てる!歯磨きには「肺炎予防」の効果も / Credit: canva

口の中が健康だと、メンタルも良好に保てるようです。

岡山大学病院の研究チームは最近、口の状態が良い人は社会的孤立が少なかったり、日常の行動範囲が広く、精神的な健康状態も良好である可能性が高いことを発見しました。

この時の「口の状態の良さ」とは、噛む力が強い、舌や唇がよく動く、ちゃんと機能する歯の数が多いなどであり、それらが栄養状態の高さや他者とのコミュニケーションを促進し、引いては”心の健康”に繋がっていると考えられます。

研究の詳細は、2023年11月28日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。

目次

口が健康だと「こころ」も健康に!歯磨きをしっかり行うと「肺炎」が予防できる?

口が健康だと「こころ」も健康に!

今回の研究は、2017年11月から2019年1月までに、岡山大学病院 予防歯科外来をメンテナンス目的で定期受診している60歳以上の患者からデータを収集しました。

最終的には、平均年齢75歳の計218名(男性66名、女性152名)を分析対象としています。

チームはまず、患者の「口の状態の良さ」を調べるために、機能歯数(自分の歯の他に義歯やインプラントも含めて、ものを噛むために機能する歯の本数)、舌や唇の動き、舌の力の強さ、噛む力の強さ、食べ物の飲み込みに問題がないかなどを総合的に評価しました。

次に「WHO-5 精神的健康状態表」(サンプル例)を使い、患者の生活満足度や幸福度を調べます。

ここで回答者は過去2週間における自らの幸福度を0〜5の6段階で評価しました。

それと同時に、日常生活での社会参加やコミュニケーションに関して質問(「何でも気兼ねなく話せる人は何人いますか?」「月にどれくらいの頻度で会っていますか?」など)。

そのほか、普段の行動範囲の広さに関する質問も行っています。

(「過去4週間以内に次の場所にどれくらいいたか?」「レベル1:自室や自宅内」「レベル2:ベランダや庭など、家の外」「レベル3:家やアパートの近くの近所」「レベル4:住んでいる町の中にある場所」「レベル5:自分が住んでいる町の外」)

そして食事メニューに基づく栄養状態や身体機能も記録し、これらを「口の状態の良さ」と比較検討しました。


口の状態の良さとメンタルヘルスを比較 / Credit: canva

その結果、口の状態の評価が高い患者ほど、日常生活における栄養状態の良さ、行動範囲の広さ、社会的孤立の少なさと関連しており、主観的な生活満足度や幸福度が高いことが明らかになったのです。

チームは、口の状態が良好だと、日常的に摂取できる食事の量や種類が増えるため、それが栄養状態の高さに繋がっていると指摘しました。

栄養状態の高さは、身体だけでなく精神面の健康に寄与することが十分に知られています。

加えて、舌や唇がよく動くことは言語的・感情的な機能や表現が高く維持できるため、他者とのコミュニケーションを活発化させることに繋がるでしょう。

こうした円滑な社会交流は行動範囲を広げることにも関連し、それらが精神的健康を高めると考えられます。


口の状態の良さは栄養状態は社会交流の高さを介して、メンタル面の健康に繋がる / Credit:岡山大学 – 口の状態が良い人は精神的健康状態が良好!(2023)

反対に、口の状態の悪さは栄養不足やコミュニケーションの困難を招き、日常的な行動力も衰え、自信の喪失から社会的孤立を含むメンタルの悪化を引き起こすようです。

以上の結果から、口の状態を良好に保つことが健康的に長生きできる要因の一つとなることが分かりました。

口内を健康に保つには「歯磨き」が最も大切な習慣になりますが、これと別に最近の研究では、歯磨きをしっかり行う高齢者ほど、肺炎の発症リスクが低下することが示されているのです。

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歯磨きをしっかり行うと「肺炎」が予防できる?

東京医科歯科大学は今年7月、家庭で行う日常的なセルフケアである「歯みがき」の肺炎予防効果を明らかにしました(The Journals of Gerontology Series A, 2023)。

肺炎とは、肺の中に細菌やウイルスが感染することで発症する病気であり、特に体力や免疫力が低下している高齢者で発症リスクが高いことが知られています。

また肺炎は年齢が上がるごとに死亡リスクも高まり、肺炎による死亡者の97.9%が65歳以上です。

そこで高齢者には、肺炎を予防するための「肺炎球菌ワクチン」の接種が強く推奨されています。

一方、肺炎球菌ワクチンの接種によって肺炎への免疫力が変わるため、チームの研究では、ワクチン接種の有無も踏まえた上で、高齢者における歯磨きの肺炎予防効果を調べました。

調査では、要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者1万7217人(平均年齢73歳,男性46%、女性54%)を対象に、日常的な歯磨きの回数と、過去1年間の肺炎経験との関係を分析しています。

対象者のうち、過去5年以内に肺炎球菌のワクチン接種を受けた人は43.4%、受けていない人は56.5%でした。

データ分析の結果、全体としては対象者の4.5%が過去1年間に肺炎を経験し、ワクチン接種群で4.6%、非接種群で4.5%とほぼ同等でした。

しかし1日の歯磨き回数を比べてみると、ワクチン接種群と非接種群とで興味深い違いが見られています。


「歯磨きの回数」と「肺炎経験率」の関連性をワクチン接種の有無で比較 / Credit: 東京医科歯科大学 – 「歯みがきが一部の高齢者の肺炎の発症を減少させる可能性」(2023)

ワクチン接種群の肺炎経験率は、1日1回以下の歯磨きだと4.5%、1日2回だと4.7%、1日3回以上だと4.4%と有意な差は見られていません。

ところがワクチン非接種群の肺炎経験率は、1日1回以下の歯磨きだと5.3%、1日2回だと4.5%、1日3回以上だと3.5%と、明らかな有意差が見られたのです(上図を参照)。

つまり、これはワクチン接種済みだと歯磨きの効果はあまり見られないものの、ワクチン未接種の場合だと、1日の歯磨き回数が多いほど、肺炎の予防率も高まることを意味します。

高齢者においてはワクチンを接種していなくても、歯磨きの習慣によって肺炎の発症リスクを十分に下げられる可能性があるのです。

今回紹介した2つの研究はいずれも高齢者を対象としていますが、口内の健康維持は若い時期からの口腔ケアが重要な鍵を握っています。

健康な心と体を維持したまま長生きするためにも、今のうちから口のケアをしておくといいかもしれません。

参考文献

口の状態が良い人は精神的健康状態が良好!
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1176.html

「歯みがきが一部の高齢者の肺炎の発症を減少させる可能性」
https://www.tmd.ac.jp/press-release/20230906-1/

元論文

Association between oral condition and subjective psychological well-being among older adults attending a university hospital dental clinic: A cross-sectional study
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0295078

Oral Self-Care, Pneumococcal Vaccination, and Pneumonia Among Japanese Older People, Assessed With Machine Learning
https://academic.oup.com/biomedgerontology

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。