海の波が複数の方向からぶつかり合うと、3次元の波が崩れた後もさらに急勾配になることがあります。/ Credit : The University of Edinburgh Official Website
上の写真は静かな海に突然現れる巨大な山のような波を映しています。
このような異常な波は「3次元波」として知られていましたが、どのようなメカニズムで形成されるかは謎とされていました。
オックスフォード大学(University of Oxford)で行われた研究では、巨大なプールを使った実験を行うことで、この3次元波が出現する仕組みの解明に挑みました。
なぜこのような奇妙な波が現れるのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年9月18日付の『Nature』に掲載されています。
目次
既存の波の理解は2次元世界をベースにしていた3次元波では垂直方向に水が吹き上げられる
既存の波の理解は2次元世界をベースにしていた
既存の波の理解は2次元世界をベースにしていた/ Credit : M. L. McAlliste et al., Nature(2024)
これまでの砕波に関する研究は主に2次元的な波を前提として行われてきました。
ここで言う2次元とは上の図のように、波の断面図を描くものです。
簡単に言えば、子供が紙に描く波に近いものと言えます。
横軸(x)と高さの軸(η)しかなく、奥行きは考慮されていません。
実際、現実世界で現れる波は2次元的なモデルで予測されるよりも遥かに急な傾きになることが知られています。
冒頭にある巨大な三角コーンのような波がその代表例であり、このような2次元モデルからは予測できない波のことを一般には「3次元波」と呼んでいます。
このような3次元波は大きな問題になり得ます。
というのも、現在の海上建築物や船は、2次元的な波のモデルをもとに設計しているからです。
あえて極論すれば、机上の空論(2次元モデル)をもとにした設計と言えます。
そのため異常な3次元波が発生すると、2次元モデルに耐えるように設計された建築物は崩壊してしまうこともあります。
そこで今回、オックスフォード大学の研究者たちは、巨大な円形のプールを使用し、3次元波が起こる仕組みを解明することになりました。
(広告の後にも続きます)
3次元波では垂直方向に水が吹き上げられる
2次元の波は砕けるとそれ以上の高さにはいかない/ Credit : M. L. McAlliste et al., Nature(2024)
2次元的なモデルの多くでは、波が砕けて先端が白くなる部分が最も先端になります。
左の左から右に移動する波は先端部分がひっくり返り、右の波は中央の波が左右から押されるようにして頂上を形成します。
この2つの場合、波が砕ける砕波の減少が起きると、それ以上波は高くなりません。
研究者たちも「通常の波は1度砕けると白い波頭を形成し、元には戻りません」と述べています。
3次元の波は砕けるとさらに勾配がきつくなり上方向に水が噴出するような波を作ることがあります/ Credit : The University of Edinburgh Official Website
次に研究者たちは奥行きを考慮した状況を再現する為、巨大な円形造波水槽を利用し、複数方向から押し寄せる波が合わさったときに何が起こるかを調べてみました。
すると波が合わさった瞬間に、個々の波の2倍の高さを持った異常な波が出現することが判明。
また波の傾きは2次元モデルで予想されていたよりも2倍から4倍急になることがわかりました。
さらに3次元波は波が砕ける「砕波」が起きた後も、波の傾きが80%も増し続け、結果的に上の図のような垂直に噴出する現象が観察されました。
研究者たちは、このような現象が起こるのは、複数方向からやってきた波が同時にぶつかることでエネルギーが集中し、上方向にエネルギーが逃げることが原因であると述べています。
特に台風などが発生すると、波の方向が複雑化し、複数方向から来る波が1カ所に集まる地点が多数出現し、結果として異常な3次元波が頻発すると考えられます。
虫メガネなどで複数の光を集めると高温になるように、複数の波が衝突する1点では垂直に切り立った3次元波が出現し得るのです。
研究者たちはプレスリリースの最後において、今後計画されている海上風力発電所などは3次元波の脅威を考慮したものにするべきだと述べました。
参考文献
Breaking the Boundaries: Scientists Discover Ocean Waves 4x Steeper Than Believed Possible
https://scitechdaily.com/breaking-the-boundaries-scientists-discover-ocean-waves-4x-steeper-than-believed-possible/
元論文
Three-dimensional wave breaking
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07886-z
ライター
鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。
編集者
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。