〈“ノーモア立憲共産党”が裏目?〉リベラル票の分散で“自民逆風選挙”でも思わぬ苦戦…立憲と共産「野党共闘」のホンネと建前

10月27日に投開票される衆議院議員選挙。自民党は裏金問題による逆風で大幅に議席を減らすと予想されている一方で、野党第一党である立憲民主党は与党劣勢の中で議席を増やす見通しだ。しかし、前回選よりも苦戦している選挙区がいくつか出てきている。いったいなぜなのか。背景には野党共闘が瓦解したことによる誤算がありそうだ。

共産と距離を置くデメリット

「特に接戦の地区を選んで応援に来ています」

投開票日を1週間後に控えたラストサンデーである10月20日。東京都武蔵野市のJR吉祥寺駅前で立憲代表の野田佳彦元首相が力強くマイクを握った。

この東京18区は菅直人元首相のお膝元であり、リベラル層が強い地盤としても知られている。

菅氏の引退に伴い、今回は前武蔵野市長である松下玲子氏が立憲公認で立候補したが、自民公認の福田かおる氏と接戦を繰り広げており、その選挙情勢は予断を許さない状況だ。

立憲関係者は語る。

「この東京18区は野党共闘が始まった2016年以来、共産党が候補者を立てずに菅氏を応援してきたが、今回は共産も候補者を擁立したため、リベラル層が割れて自民候補に対して苦戦している。せっかく自民が裏金問題で窮地に追い込まれているのに、野党乱立で漁夫の利を許してしまうかもしれない」

裏金問題で大逆風の自民とは対照的に、選挙戦で勢いづいている立憲だが、このように共産との選挙協力が崩れたことによって、一部の選挙区では前回選よりも厳しい情勢となっているのだ。

もともと、立憲は前回の2021年衆院選で、政権交代を果たした際に共産と「限定的な閣外からの協力」をするという約束を交わし、多くの選挙区で候補者調整する野党共闘の態勢で挑んだ。

あくまで共産が閣内に入るわけではなく、連立政権ではないと主張した形だが、与党は選挙戦で「立憲共産党」と批判をし、中間層が離反。

その結果、序盤情勢では議席を増やすとみられていたのが、まさかの議席減となり衆議院で100議席を割ってしまう事態となった。

その後、立憲の代表は枝野幸男氏の引責辞任から泉健太氏に代わり、そして今年の9月23日にあった代表選では党内きっての保守派の論客である野田佳彦新代表が誕生した。

ある意味、前回の衆院選からの反省によって、共産からは距離を取る方向、つまり今後は「立憲共産党」とは言われない方向に舵を切っていったと言えるだろう。

実際に、野田氏は共産と政権構想を交わすことには否定的な見解を示し、反発した共産は野党共闘から手を引き、野田氏が出馬する千葉14区にも候補者を擁立した。

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リベラル票が割れ苦戦する選挙区も

立憲からすれば共産との野党共闘瓦解がすべての選挙区でマイナスに働くわけではないが、冒頭に触れた東京18区においては、共闘解消が選挙情勢に大きな影響を与えてしまっている。

東京は地方と比べて流動性が高いため、組織票や固定票が定着しにくく、浮動票や無党派層が多い傾向にある。

そのため、共産党を支持するリベラル層の票も他地域に比べると一定程度出るため、立憲都連では共産に候補者を降ろしてもらうことが選挙戦略のセオリーになっており、そのなかで共産の支援によって自民に競り勝つ候補も多くいた。

実際に、立憲が議席を減らした2021年衆院選でも、東京都内では8つの選挙区で立憲が自民に勝つなど一定の成果を残している。

しかし、今回は複数の選挙区で共産が新たに候補者を擁立したため、情勢が前回よりも厳しくなってしまっているわけだ。

共闘瓦解に苦しむもう1つの選挙区が東京15区だ。

東京15区といえば、今年4月に行なわれた補欠選挙で、自民が「政治とカネ」の問題で候補者擁立を見送る中、小池百合子都知事が乙武洋匡氏を支援したが不発に。

その中で、立憲の酒井菜摘氏が初当選を果たしたが、このとき、共産は擁立する予定だった候補者を降ろし、酒井氏と政策協定を結んでいた。

まさに、野党共闘が実現した形だったわけだが、今回は共産も前回降ろした小堤東氏を擁立。
各政党や報道各社による情勢調査の一部では、酒井氏が自民の擁立した大空幸星氏にリードを許している情勢となっている。

立憲都連関係者は「大空氏がテレビ出演も重ねてきた25歳の超若手で勢いがあるという面もあるが、やはり共産に候補者を立てられてリベラル層の票が取られている影響は大きい。

情勢調査でも立憲と共産を合わせたら自民に勝てる数字なのに、割れているがゆえにリードされているような状態だ」とため息をついた。