ウェブメディアで氾濫する「変な広告」の正体…なぜ記事を読みたいのに動画を視聴させられるのか「このままだと、ヤバい」

ウェブメディアに流れていたお金が動画、検索、SNSへ

実をいうと2021年以降、多くのメディアはPVの下降傾向に悩まされてきた。コロナ禍での巣ごもり需要により各メディアは最高PVの更新に沸いたが、オリンピックも終わり、人々が待ち望んだ「ニューノーマル」の時代が訪れると、かつての最高水準に達することができなくなってしまった。

巣ごもり需要の低迷に加え、動画サイトやSNSにユーザーを奪われ、ウェブメディアの数そのものが増えるなど、複合的な要因があった。

一方で、広告の動きにも変化があった。2023年4Q(第四四半期)のグーグルの決算を見ると、売上高は過去最高であるものの、多くのウェブメディアが収益源の柱としている「グーグル・ネットワーク」(アドネットワーク広告)が昨対比97・9%で減少している。昨々年対比だと89・2%にまで落ち込んでいる。

電通らが発表した「2023年 日本の広告費」によれば、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費は前年比106・9%の1294億円とパイそのものは広がった。だが、新聞デジタルは94・1%の208億円、媒体数は増加しているとされる雑誌デジタルは100・2%の611億円と厳しい。

デジタル広告の種類別に見ていこう。ウェブサイトの広告枠に表示される「運用型ディスプレイ広告」の金額は昨対比7・6%増の6939億円だった。だが担当者によると、「運用型ディスプレイ広告の増加要因にSNSは大きく影響」したそうだ。

つまり、SNSのタイムラインなどでコンテンツに挟まれる形で表示されるタイプの「インフィード広告」が活況ということであり、多くのウェブメディアの収益を支えてきたネットワーク広告は「苦戦している」という。

他方、検索連動型広告は9・9%増、動画広告は15・9%増と順調に伸びている。ソーシャル広告単体でみても13・3%増で順調だ。結局、これまでウェブメディアのネットワーク広告枠に使われていたお金が検索、動画、SNSに流れていると分析できる。

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ウェブメディアの大波乱「サードパーティクッキー廃止」 

またネットワーク広告にとって重要な「サードパーティークッキー」をめぐり大きな動きも出ている。サードパーティークッキーとは「広告企業などがサイトを横断して消費者のウェブ閲覧履歴を集めるのに使う。利用者の関心や属性に応じた広告配信を支えてきた」(日本経済新聞2024年4月24日「Google、サードパーティークッキーの24年内廃止を延期」)ものだ。

つまりウェブ閲覧履歴を収集して最適な広告を出すツールといえるが、プライバシー保護の観点から批判が高まり、「米アップルの『サファリ』など、競合するブラウザーはすでに初期設定でサードパーティークッキーの機能を全面禁止」(同)した。

グーグルでも自社ブラウザ「クローム」での使用について、もともと2024年内に廃止する計画を進めていたが、その後方針変更を発表。サードパーティークッキーは残しつつ、ユーザーに選択を委ねる形に変えていくという。

この、ウェブメディアで読者に合わせた広告の配信を可能にするサードパーティークッキーの廃止や変更により、すでにネットワーク広告では収益の伸び悩みや減益という大きな影響が出ているが、クロームが使用中止をせずとも仕様を変更すればさらに収益は悪化するだろう。

それに対して現在収益を伸ばしている動画、SNS、検索はいずれもファーストパーティークッキーを活用したものだ。つまり、自社サイト内で獲得したユーザーの属性情報を広告に使っており、サードパーティークッキーと違ってサイトをまたいでのトラッキングはウェブメディアほどそこまで重要ではない。

だからこそ、自社でユーザーが関係するようなユーチューブ、各SNSなどはサードパーティークッキー廃止の流れによる影響はそれほど大きくない。要するに、広告はファーストパーティーデータを持っている巨大メディアへ流れている。

また、ディスプレイ広告、中でもウェブメディアのネットワーク広告の広告効果を懐疑的にみる広告出稿者が増えているとされることも、今後の先行きを不安にさせている。 

つまり、PVは伸び悩んでいるのに、1PVあたりのもらえるお金も下がっている状況なのだ。