2人の巫堂(ムーダン=朝鮮半島のシャーマン=キム・ゴウン、イ・ドヒョン)と風水師(チェ・ミンシク)、葬儀師(ユ・ヘジン)が掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密を描き、韓国で観客動員約1200万人の大ヒットを記録したサスペンス・スリラー『破墓/パミョ』が、10月18日から全国公開された。来日したチャン・ジェヒョン監督に話を聞いた。

-この不思議なストーリーのアイデアはどこから得たのでしょうか。

 9歳の時に、町の近くに高速道路を作るため、100年前の墓があった山をなくすことになりました。その時、改葬を目撃してとても複雑で妙な感覚に襲われました。実際に墓を掘り、土を掘ってみると、100年前の人々が使っていた水筒や手袋のようなものが出てきて、まるでタイムマシンに乗って過去にタイムスリップをしたような気持ちになりました。その時の感覚を生かしてこの映画を製作しました。

-この映画に見られるような墓や先祖へのこだわりの強さは、儒教の影響があるのでしょうか。

 もちろん儒教の影響もあると思いますが、お墓やご先祖さまへのこだわりというのは、もちろん方式は国によって違うかもしれませんが、どこの国にもあるのではないでしょうか。

-韓国で若者を中心にヒットした理由はどこにあると思いますか。

 コロナ禍で映画館が深刻な状況に追い込まれました。その時、「映画館って何だろう」「なぜ映画館で映画を見るのだろう」「映画館がつぶれてしまったらどうなるのだろう」というようなことを考えるようになりました。それで、純粋に映画館で楽しめる映画、面白くて見たらうれしくなるような直感的で体験的な映画、映画館にぴったりな映画を作りたいという気持ちが湧き上がってきました。この映画は、そんな思いを生かした映画です。ヒットした要因の一つは、やはり役者です。彼らが素晴らしい演技をしてくれたので、たくさんの観客から支持を得たのだと思います。そもそも監督は、映画を作る際に、最初からヒット作を作ろうと考えたり、興行成績を意識して映画を作ることはありません。なので、ここまでヒットをするとは思いませんでした。

-主要キャストの4人については、どう感じましたか。

 僕が重点を置いたのは、若い世代と古い世代との新旧の融合みたいなことでした。それぞれについて言えば、チェ・ミンシクさんは従来のイメージを大きく変えたかった。恋愛ものが多かったキム・ゴウンさんは新しい姿を見せたかった。イ・ドヒョンさんはキャスティングをした時は新人だったのに、撮影をしているうちにスターになってしまった。それからユ・ヘジンさんは4人の主人公の一種の潤滑油のような役割を果たしてくれました。

-撮影のロケは1カ所ではないのですよね。

 まず、お墓自体は韓国のほぼ最南端である釜山で撮影をしました。韓国の11月は秋の雰囲気が濃くなって、物寂しい秋の色に染まるんですけど、そうした雰囲気を盛り込みたかったのです。また、12月に入ると雪が降るため、その前に撮影を進めたかったので、北の方から順番に、1カ所で2カットずつ撮りながら南下していく感じでした。

-この映画をホラー映画と呼ぶのは少し違うような気もしますが。

 僕は、前作も今回もホラー映画としてのアプローチはしていないつもりです。もしこの映画をホラー映画として仕上げるのであれば、アメリカ在住の依頼人を主人公にするべきです。なぜかというと、ホラー映画というのは基本的にその95パーセントが、被害者中心の物語であり、そうであってこそ恐怖感が増します。ですので、僕の映画はほとんどの場合、主人公が専門家のような人になっていて、逆の立場からすれば加害者になります。例えば、バンパイアならヴァン・ヘルシング、キョンシーなら道士といった具合に。日本のホラー映画は怖過ぎてあまり見ていませんが、『陰陽師』(01)が大好きです。

-この映画は日本についての描写が大きな役割を果たしますが、ネタバレになるので聞くことができませんが…。(以下、ネタバレあり)

 その点について、僕から少し説明をしたいと思います。そもそもこの映画は、過去にあった間違いを取り出すことが根底にあります。墓を掘る場面において、歴史的に見て2度あった韓国にとっての大きな傷と遭遇します。まず1つ目は、重葬の上にあるものを掘った際に100年前の植民地支配と遭遇します。それを取り出して解決をして、その後にもっと過去を掘り下げてみたら、もう1つの歴史的な事件と遭遇します。それが500年前の文禄・慶長の役、豊臣秀吉の朝鮮出兵でした。この2つの歴史的な傷について、キーワードを申し上げたいのですが、まず1つ目は、100年前の植民地支配に関連するものとして、「残滓(ざんし)」と「傷跡」がキーワードになっています。もっと深く掘った時に遭遇する500年前の文禄・慶長の役のキーワードは「恐れ」です。日本の戦国時代に、日本の部隊が朝鮮半島に渡って来た時に、そこで暮らしていた人々が感じたであろう恐れを、この映画を通してなくしたかったのです。

 僕はそもそも日本の映画を通して映画の勉強をしてきましたし、唯一の趣味が日本の漫画を読むことです。日本が大好きで日本のファンのようなものです。ですから、本作は日本に対してよろしくない感情を持っているという話ではなくて、韓国がずっと持ってきた痛みとか傷について語りたいという気持ちでした。ですので、本作の主人公たちは、自分たちが抱え込むことになった人々の傷と地位を回復してあげるのです。それと同じように、韓国が持っている傷跡を自ら努力して回復したいということを考えながらこの映画を作りました。この説明は、もし歴史関連で誤解があったらその答えになるのではないでしょうか。僕がこの映画を作った本音の部分についてご理解をいただきたいと思います。

-どんな日本映画が好きなんですか。

 映画学校で学んだので、今村昌平監督を勝手に師匠と呼んでいます。好きな日本映画が多過ぎて、何か一つを挙げるのは難しいです。新井英樹さんの漫画が大好きです。『ザ・ワールド・イズ・マイン』は100回ぐらい読みました。

-最後にこの映画の見どころと、読者に向けて一言お願いします。

 見どころについてはネタバレになってしまうので(笑)…。ぜひ劇場で、大画面と迫力のあるサウンドで見ていただきたいと思います。この映画の見どころを一言で言えば、冷たいそばと温かいそばが同時に食べられるような、熱いところと冷たいところが両方あるので、2つの違いを皆さんに感じていただきたいなと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)