1800年代後半から現在まで存在するカバーオール。その中でもデニム好きが気になるヴィンテージに対する審美眼を鍛えるには、ディテールなど細かいポイントを押さえておくとある程度の年代が想像できる。また年代によって変遷していくディテールの変化は、歴史的背景や当時の服装文化に由来していることが多いので、その流れを知っておくとヴィンテージの年代特定や、新品がどの時代のデザインを踏襲しているかがわかって、カバーオール選びがますます楽しくなる。
シルエット/Aラインは1930年代までの特徴。
ワークウエアのシルエットは大戦前後で大きく変化する。1930年代まではテーラーメイドジャケットの名残がまだ強く、肩幅に対して裾幅が広いAラインのシルエットが主流だが、1940年代半ば(第二次世界大戦後)になると大量生産へと時代が変わり、肩幅と裾幅が同等のゆったりとしたボックス型シルエットへと変化していく。
上の写真は戦前のデニムカバーオール。平置きにすると肩幅よりも裾幅が広いAラインのシルエットであることがわかる。まだカバーオールがテーラードジャケットの延長線上に存在していたことがわかる。
第二次大戦ごろの1940年代にはよりパターンがシンプルになったボックス型のシルエットへと進化する。肩幅と裾幅がそれほど変わらないパターンへと変化している。大量生産時代ならではの作りやすいジャケットへとカバーオールが進化していった。
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胸ポケット/世界恐慌、第2次世界大戦を契機に変化していく。
カバーオールを含むワークウエアは歴史的な背景に左右されてディテールが変化していく。1900年代から1920年代にかけて各ブランドが機能性を追求する中で、「ラウンドフラップ」や「変形ポケット」など個性的な胸ポケットが続々と登場する。そして1929年の世界恐慌における失業者増に伴い、ワークウエアの需要が増加。それによってバラエティに富んだデザインが増えていく。しかし第二次世界大戦が勃発すると物資統制の煽りを受け、ポケット数の減少するなど簡素化していき、それにともなって縫製仕様が複雑な変形ポケットも少なくなっていった。
世界恐慌以前(1920年代以前)/胸ポケットはひとつ、変形タイプのポケットは懐中時計を仕様していた影響もあり。
1929年に起きた世界恐慌前後のカバーオールには、多くのブランドが存在していただけでなく、各ブランドが独自のアイデアでデザインした変形ポケット(写真の左胸ポケット)などを配すなど、それぞれのブランドで多様なデザインが存在していたが、胸ポケットひとつ、下部にパッチポケットというシンプルなデザインが多かった。
1930〜1940年代/両胸にポケットが増えて機能性が向上。変形ポケットも数多く存在した。
1930年代、世界恐慌で失業者が増えたことにより、アメリカは多くの公共事業を行うことによってたくさんの労働者を増やすことに。これによってワークウエアの需要が急増することで、各ブランドが多くのカバーオールを生産した。各ブランドが様々なデザインのカバーオールをデザインすることで、このころはデザイン、ブランドともかなりの種類が存在。両胸、左右下部のパッチポケット、複雑なカフス形状など機能性も向上し、カバーオールの黄金期になる。
1940年代後半(第二次世界大戦以降)/物資統制によって胸ポケットが省略されることも珍しくなかった。
第二次大戦期には国の物資統制の影響でカバーオールは簡素化された省エネデザインに。ポケットの省略やトリプルステッチがダブルステッチになるなどの縫製仕様の簡素化、それにカフスのデザインがシンプルになる。戦後になると、かつての複雑な作りのカバーオールは淘汰され、より大量生産に向いたデザインが主流になっていた。