キリンにエサやりをできるサユリワールド
2011年、市原ぞうの国に隣接する土地に開かれた「サユリワールド」も、「自分の庭を造るつもり」で立ち上げました。
「庭にキリンがいたらきれいだろうなって思って(笑)。それと、いろいろな動物を飼育して、一緒に生活させたかったんです。動物と人間が仲良くできる場所をつくりたくて」
サユリワールドでは、開園にあたり新たに飼育をカンガルーやカピバラ、ラマなどが放し飼いされ、ワオキツネザルなどと触れ合うことができる
近年では動物を放し飼いしたスペースを売りにする施設も出てきています。しかし、小百合さんは「単に動物を放してもうまくいかない」と話します。
「人間やほかの動物がいても驚いたり、怯えたりしないパーフェクトな動物を1匹育てれば、仲間はそれに準じます。動物が動物にものを教える方が、ずっと楽なんですよ。だから私は、サユリワールドで放す前に手をかけて育てています」
周囲の目を気にせず、自分の「勘」を頼りに市原ぞうの国とサユリワールドを経営してきた小百合さん。ほかの動物園にない存在感に惹かれた人たちが集います。
たとえば、スタッフの藤代さんは、もともと北海道で酪農をしていました。しかし、60歳を過ぎて身体を壊したのを機に、一念発起。子どもに牧場を譲り、家族を北海道において、車で市原ぞうの国までやってきました。
「昔からゾウが好きでね。ゾウが日本で一番いるのがここでしょ。ゾウのそばで暮らしたいから、雇ってもらえないかなと思って飛び込みで来たんです」
藤代さんから直談判された小百合さんは、あっさりと受け入れました。その理由は?
「面白そうだから!」
もう一人は、20歳の若者。
「高校1年生の時からアルバイトに来ているんです。タイに何回か行って勉強して、今は朝早く来て、タイ人のゾウ使いがなにをしているのか、見ているだけの修行をしているの」と小百合さん。
1992年に哲夢さんが亡くなって以降、日本で活動している日本人のゾウ使いはいません。市原ぞうの国から、哲夢さんの後を継ぐゾウ使いが誕生するのでしょうか。小百合さんは、温かく見守っています。
市原ぞうの国の敷地内にある、哲夢さんと小百合さんを模ったブロンズ像
(文/写真・川内イオ)