【人との関係性を変えるコミュニケーションとは?・6】日本人の多くは、小さいころから「唯一の正しい答え」を求める教育を受けてきました。それも影響してか、「正しい答えをより多く知っている人の方が、優れている」とか、「上司は正解を答えられないといけない」などと、なんとなく思ってしまうものです。でも、社会に出てみると、世の中には正解が明確にあるものは非常に少ないことを知ります。私は、コーチ・エィの執行役員という役割を担っています。では、「コーチ・エィの執行役員としての、唯一のあるべき正解の姿」はあるのでしょうか。営業活動、商品開発活動、マーケティング活動、プロモーション活動に、「唯一の正解」はあるのでしょうか。もちろん、私の失敗や成功の体験から導き出された、「“片桐が考える” 答えのようなもの」はあるかもしれません。一方で、例えばBさんが経験してきた失敗や成功が私と違うものならば、「“Bさんが考える”答えのようなもの」があるわけです。しかし、それは唯一無二の正解ではありません。
●Think together
20世紀の組織の多くは、各部署に求められる機能や必要な要素がはっきりと明文化され、その機能をしっかりと果たせる人材が雇用されていました。コミュニケーションに関していえば、組織が安定して機能し続けるために、情報を一方から一方へと流すような「伝達型」が好ましいものでした。そのため、組織のトップに立つリーダーには、「的確に指示・命令を出すこと」が求められていたのです。
でも、社会が複雑化し、人々のニーズも時々刻々と変化する中では、誰もが暗中模索です。経験豊富なビジネスパーソンだとて、「答えのようなもの」は持っているかもしれませんが、正解は持ち合わせていません。
こんなふうに考えた経験はありませんか。「上司なら答えを知っているだろうから、聞いてみよう」「部下から質問されたら、答えを教えなくては」など。
でも、部下が上司よりもキラリと光るアイディアを持っているかもしれないですし、上司が部下の意見を融合することで、2倍の効果が得られる施策が生まれるかもしれません。「上司は正解を答えるべき」という考えから解放され、共に考えられるようになると、双方の間から思いもよらないアイディアが出てくるかもしれません。
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●共に考えるためのヒントは「オープン・クエスチョン」
ここで、共に考えるためのヒントを紹介します。共に考えるときに重要なのは、「質問する人」「質問される人」という区別がなく、問いを間に置いて、双方向にやり取りをすることです。例えば、「質問する人」「質問される人」が固定されるような「質問」はこんな感じです。
「このプロジェクトをスタートした目的は何ですか?」
「先ほどおっしゃっていた○○についてですが、xxの場合はどのようにお考えですか?」
「マネージャーは、どうあるべきだと思いますか?」
これらの質問には、尋ねる側に「あなた(答える側)が持っているはずの正しい情報や答えを出してほしい」という意図があります。よって、答える側に、「質問に何とかして答えなくてはいけない」「相手が求める正解を提供しなくてはならない」というような緊張を強いる可能性があります。特に上司と部下の関係だと、ついつい「はい」か「いいえ」で終結してしまうような質問が多くなりがちです。
一方で、尋ねる側が決まった答えを引き出すのではなく、双方が一緒に立ち止まって考えるという行為へといざなうのは、こんなクエスチョンです。
「私たちの会社が本当に成し遂げたいことは何だろう?」
「会社の何を変えていくといいだろう?」
「あなたが今必要としている変化は何だろう?」
私たちはこのようなクエスチョンを「問い」と呼んでいます。もちろん仕事において、明確な確認や対話のスピードアップのためにクローズド・クエスチョンが有効な場合も多くあります。一方で「問い」は、自由に話す中で新たな気づきが得られる可能性が高まります。「共に考える」コミュニケーションにおいては、このようなオープン・クエスチョンが考えを広げていく上で効果的です。
ここで注意したいのは、たとえオープン・クエスチョンを投げかけたとしても、質問者が確認したいことを確認するためだったり、質問者があらかじめ聞きたい答えに誘導したりするような質問の仕方では、相手が自由に話すことはできません。また、対話をしていると、ときに意見の食い違いから不快感が生じることもあります。共にこの不快な気持ちを乗り越えていくためにも、ときとして「私たちは何のために対話をしているのか」という共通の目的を、一緒に再確認することが効果的です。
対話をしているときは、双方の「共に考える」姿勢が大切なのです。(コーチ・エィ・片桐多佳子)
■Profile
片桐多佳子
コーチ・エィ 執行役員
東北大学経済学部卒。コーチ・エィでは経営層を対象としたエグゼクティブ・コーチングを行い、200人以上のビジネスリーダーへのコーチング実績を持つ。「組織インパクトを出す」コーチングにこだわり、組織風土変革、業績向上、部門間連携強化などのニーズに対する、エグゼクティブ・コーチングやコーチングプロジェクトの設計、マネジメントを多数手がける。組織変革のプロセスを企画から成果創出までトータルに支援している。2016年より執行役員。国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、生涯学習開発財団認定マスターコーチ。