古代の星々は原子質量260以上の超重元素をうみだしていた


42恒星の30種のr過程元素について測定された対数組成(白丸)を原子番号の関数としてプロット。(A) 34 < Z < 52の元素をZr(黒円)で規格化したもの。元素のラベルはパネルの下にある。(B) パネルAのベースラインパターンとデータとの間の残差。(C & D) パネルAおよびBと同じだが、56 < Z < 78の元素について、Ba(黒円)に正規化。 / Credit:IAN U. ROEDERER et al . Element abundance patterns in stars indicate fission of nuclei heavier than uranium . Science (2023)

宇宙の錬金術(r過程)では、どれほどの重さの原子が作られるのか?

答えを得るため研究者たちは、r過程の研究で良く使用されている42個の初期の星々に含まれる元素を観察しました。

(※特にルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀の比率が調査されました)

初期宇宙では、まだ大量の星が大量の核融合を繰り返し宇宙にばらまくという過程が進んでいないため、金属元素があまり存在していません。そのため非常に金属の欠乏した低金属星となっています。

ところが、こうした低金属星を調べるとなぜか重元素は含まれていることがあるのです。

こうした重元素はr過程で作られた元素であると考えられるため、r過程でどのような元素がどの程度作られるかということを調べる際に利用されるのです。

先に述べたように、r過程によって作られた中性子山盛りの原子は、その後の安定化によってより安定した質量の元素へと変化していきます。

そのため理論的には、星々に含まれる元素のパターンを調べることができれば、母体となる中性子山盛り原子の正体(質量)を調べることが可能となるはずです。

ただ単独の星からのデータだけでは十分な情報量にならないため、今回の研究では42個の星々の観測値をまとめて分析することにしました。

すると、特定の元素のパターンがあることが判明します。

それのパターンは銀やロジウムなど、周期表の中央付近にリストされている元素が、ベータ崩壊や中性子放出によってではなく、核分裂(3つ目)によって生成された重元素である可能性を示していました。

この結果は、r過程によって少なくとも分裂前に260以上の原子質量を持つ元素が生成されていた可能性を示しています。

研究者たちは、この260という原子質量について「非常に興味深い事実です。なぜなら、核兵器実験であろうと、宇宙や地球上の自然界であろうと、これほど重いものはこれまで検出されていなかったからです」と述べています。

もし原子質量260がr過程で生成される最大質量であるならば、その理由を調べることで、宇宙法則の最も基本的な部分を理解できるでしょう。

参考文献

Ancient Stars Made Extraordinarily Heavy Elements
https://news.ncsu.edu/2023/12/ancient-stars-made-extraordinarily-heavy-elements/

元論文

Element abundance patterns in stars indicate fission of nuclei heavier than uranium
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf1341

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。