レジェンド4人が代表引退。“新生”ドイツ代表の現在地「後継者は簡単に見つからないと思われたが…」【現地発コラム】

 ドイツ代表がオランダ代表と対戦したネーションズリーグの試合前、満員のアリアンツアレーナ(ミュンヘン)のゴール裏に「LEGENDEN DANKE FUR ALLES,JUNGS」というコレオが出現した。

 EURO2024を最後に代表を引退したドイツ代表のレジェンド4人へ感謝の意を最大限に表したファンからのメッセージだ。マヌエル・ノイアー(代表通算124試合)、トーマス・ミュラー(131試合)、トニ・クロース(114試合)、イルカイ・ギュンドアン(82試合)と4人合計で451試合にも及ぶ。

 ノイアー、ミュラー、クロースの3人は2014年のワールドカップ優勝の立役者だ。ギュンドアンは負傷で同大会に参戦できなかったが、EURO2024ではキャプテンを務めた。

 4人ともピッチ上だけではなく、ピッチ外でもドイツサッカー界の顔として重要な役割を担っていた。その貢献の大きさには計り知れないものがある。クロースは所用で欠席となったが、ノイアー、ミュラー、ギュンドアンの3人はグラウンドに姿を現し、オフィシャルにファンの前で代表からお別れとなった。

 またこの日は彼らだけではなく、退任するスタッフ5人にも同じようにセレモニーが準備されていた。心理学士のハンスディーター・ヘアマン、フィジオのヴォルフガング・ブンツ、チームマネージャーのトーマス・ベヘシチ、広報コーディネーターのウリ・フォイクト、アディダススタッフのクリスティアン・シュターツ。映像とともに名前が読み上げられ、最後には「DANKE!(ありがとう!)」の言葉が映し出される。
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 スタジアムのファンからは大きな、温かい握手。目立たないかもしれないが、様々な人の助けと力で成り立っているのだ。スタッフの人たちへのリスペクトを感じさせられる素敵なシーンだった。

 ユリアン・ナーゲルスマンがドイツ代表監督に就任して1年が経つ。地元開催のEUROでは優勝したスペインに敗れて準々決勝で大会を去ることにはなったものの、その試合内容と戦いぶりにファンの熱狂を取り戻すことができた。

 このオランダ戦ではジャマル・ムシアラ、カイ・ハバーツ、ダビト・ラウム、デニス・ウンダフら多くの負傷者がいながら、新戦力が台頭し快勝した。
 レジェント4人の後継者はそう簡単には見つからないと思われたが、意外と大丈夫かもしれない。ノイアーの後継となるGKはマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンが負傷で長期離脱したのは痛いものの、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦ではアレクサンダー・ニューベル、オランダ戦ではオリバー・バウマンが優れたビルドアップと鋭いセービングで勝利に貢献した。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で2ゴールのウンダフは秀逸なゴールセンスとユニークなコメントでファンのハートを掴み、ミュラーの後継者に名乗り出る。そしてオランダ戦で代表初スタメンを飾ったアレクサンダル・パブロビッチとアンゲロ・ステラーの二人はクロースとギュンドアンのような選手になれるのでは、という確かな未来像を見せてくれた。

 オランダ戦の結果は1-0勝利だったが、90分を通してゲームをうまくコントロール。9月にアムステルダムで対戦した時は前からのプレスにいきすぎてカウンターから危ない場面を作られていたが、この日はそのあたりのバランスが大きく改善されていたのが印象深い。

 試合後の記者会見で、ナーゲルスマンはいつも通り自信に満ちた声で手ごたえを口にしていた。

「(代表監督に就任して)最初のころの試合では、そこまで大きな変化を加えることもできず、ネガティブな結果も続いてしまった。だがその後にいいグループを見つけ出し、チームとしての軸を作り出すことができた。代表にいない選手が悪いわけではなく、代表チームとしていいハーモニーをもたらすことが大事だった。いま代表にいる選手はみんな素晴らしい選手たちばかり。サッカー的に優位性を持ったプレーができるようになって、トップチャンスを作り出してくれた。それに相手が押してくる時間帯でも構造を保ちながらプレーを続けられたのも素晴らしい」
 
 代表を去ったレジェンド4人との別れを心底惜しみつつ、EURO以降、期待が膨らんでいる新生代表へのワクワクも止まらない。記者席のすぐ前に父親に肩車をされた男の子がいた。4、5歳くらいだろうか。フロリアン・ヴィルツが大好きなようだ。スタメン発表で彼の番になると、両手で大きくガッツポーズをして、大きな声でその名を叫んでいた。

 プロサッカー選手は子供たちに夢を与える存在。そして代表選手はクラブのつながりとはまた違う、自分達のルーツに繋がる確かなアイデンティティをもたらしてくれる存在なのだ。

 世代交代を進めるドイツが、2026年ワールドカップに向けて幸先のいいスタートを切っている。

取材・文●中野吉之伴

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