2030年秋頃に開業が見込まれているカジノを含む大型リゾート、大阪IR。年間2000万人の来場者を見込んでおり、大阪府と市に年間1060億円もの収入がもたらされる試算になっている。だがその収入の大半は、入場客がカジノで負けたお金が支えることになる。
書籍『カジノ列島ニッポン』より一部を抜粋・再構成し、カジノ事業の問題点を明らかにする。
ついに出た整備計画の認定
「IRは、国内外から多くの観光客を呼び込むものとして、我が国が観光立国を推進する上で重要な取組です。大阪のIRについては、2025年の大阪・関西万博の開催後の関西圏の発展や我が国の成長に寄与するとともに、日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることが期待されています」
2023年4月14日、首相の岸田文雄氏は官邸で開かれたIR推進本部の会合で、こう語った。この日、国土交通大臣の斉藤鉄夫氏が大阪府と大阪市によるIR整備計画を認定した。
府市は2022年4月に申請を提出している。当初はもっと早く「GOが出る」見込みだったが、長引いた。地域政党である大阪維新の会が府市のダブル選挙で圧勝したのが、政府が認定を出した5日前の4月9日。選挙では「カジノの是非」が争点となっただけに、その結果を待って政府が手続きを進めたと考えるのが自然だ。
カジノ管理委員会からカジノ免許を得るなどした後、大阪IRは2030年秋頃の開業を目指す。
まず押さえたいのは、その立地だ。地図にあるように、大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲」が舞台となる。広さは約390万平方メートル。東京ドームの面積は4万6755平方メートルだから、約83.4個分となる。
そして、夢洲は2025年開催予定の大阪・関西万博の会場でもある。下の地図を参照してもらえば分かるように、南側約155万平方メートルを万博会場予定地とし、北側約50万平方メートルをIR建設予定地にあてる。
具体的には大阪市が日本MGMリゾーツとオリックスを中核企業とする「大阪IR株式会社」に土地を貸し出す。年25億円で35年間貸し出す定期借地契約が結ばれた。
ただし、この夢洲はIR用地として問題含みだ。夢洲は「良好な都市環境の保全や公害防止、大阪港の機能強化を目的として、廃棄物、建設工事に伴う陸上発生残土、浚渫土砂の受入を行っている」(大阪市の「夢洲土地造成事業」調書付属資料)。
そのためIR建設を進めるためには、有害物質の除去や液状化対策が必要となる。府市は長らく「IRには公金投入は必要ない」と説明し、民間資金だけで進めることを利点の1つに挙げてきた。
しかし、IR事業者から求められ、土壌対策費として788億円を負担することになった。府市が要求を吞んだ背景には、IR事業者の公募に1社しか名乗り出なかったことが指摘されている。
さらに開業後の増築などで施設が拡張される場合、大阪市が追加の土壌対策費として最大で約257億円を想定していることが、2023年9月に明らかになっている。
2030年の開業時に駐車場や広場になる予定の14万平方メートルと、拡張用の土地に見込む6万平方メートルの合計20万平方メートルが対象だ。順調に集客できれば、大阪IR株式会社としては追加投資をして、施設を広げたくなろう。2030年代に、この費用負担が注目される可能性は大いにある。
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地盤沈下対策
また、大阪市と大阪IR株式会社が結んだ「事業用定期借地権設定契約書」の骨子案には、気になる記述がある。「地盤沈下対策」の項目に、次の一文が出てくる。
「市が本件土地に使用した埋立材の原因により、通常の想定を著しく上回る大規模な地盤の沈下又は陥没が生じ、これらに起因して通常予測され得る程度を超える地盤沈下対策等が必要と見込まれる場合、一定条件の下、市がその費用を負担」
大阪湾内にある関西国際空港が1994年9月の開業以降、地盤沈下への対策を取り続けていることは知られている。どの程度が「通常の想定」の地盤沈下なのかは記載を見つけられなかったが、大阪IRでも大阪市のさらなる負担が生じる懸念はぬぐえない。
悪しき前例もある。大阪・関西万博の会場建設費は2023年11月、当初想定の1.9倍となる最大2350億円になる案が認められた。建設費は国・府市・経済界の三者が、等分に負担する。
当初は1250億円だったのが、2020年に1850億円になり、さらに増額した。主催する「2025年日本国際博覧会協会」(万博協会)は、資材価格や労務単価などの物価上昇を理由にしているが、当初見込みの甘さを指摘されても仕方ない。
この土地をめぐっては、さらにもう1点、指摘事項がある。大阪市がIR事業者に貸す土地の賃料が不当に安く設定されたなどとして、2023年4月に住民10人が訴訟を起こした。
原告らは、大阪市が賃料算定を不動産鑑定業者4社に依頼したところ、3社が1平方メートルあたり月428円で一致したことを問題視。この値段になったのは、「不自然な一致で、著しく安価に設定された不当な鑑定だ」と不服を申し立てた。
報道によると、この月428円の算定にあたり、鑑定業者は「IR事業は国内の実績もなく、考慮することは適切ではない」と2019年夏、大阪市に説明したとされる。
しかし、カジノや高級ホテルの売上を年間5200億円も見込む事業の効果を、賃料算定に含めなくていいものなのか。大いに疑問が残るだけに、訴訟の行方を注視したい。