以前は食べるとなると「ギャーッ!」という反応をされるのが一般的だった昆虫食。しかし近年では栄養価が高く、環境負荷も少ない「サステナブルな食品」として、世界的に注目されつつあります。
昆虫の加工食品を製造・販売する株式会社TAKEOの三橋亮太さんは、食用トノサマバッタの養殖に挑戦する「むし畑」の農園長。今回は三橋さんに「昆虫の養殖」の大変さ、そして昆虫食を普及する仕事のやりがいについて、話を伺いました。
コオロギは養殖が簡単、でもバッタは……
――まず、TAKEOの製造・販売する「国産昆虫」シリーズは、バッタのほか、さまざまな産地のコオロギを扱っていらっしゃいますよね。
コオロギは大量に養殖するのが比較的簡単なんです。特別な環境を用意しなくても、衣装ケースがあれば育てられます。農業や食品業に直接関係のない人でも着手しやすいと思います。
日本国内の昆虫食ではコオロギがメジャー。ぼくが把握しているだけでも30以上の事業者が存在するんです。
TAKEOの製造・販売する昆虫食品
――確かに昆虫食は、コオロギの加工食品が目立ちます。昆虫でも魚介類のように「天然モノ」と「養殖」で差異があったりするのでしょうか?
必ずしも「天然だから価値がある」というわけではありません。種によっては野生を採集する労力に対し売り値は安いから……という理由で、養殖を選ぶケースもあります。
逆にハチやアリのように仲間内で役割を持って行動する「社会性昆虫」と呼ばれる昆虫は、人工的に社会を構成することが難しく、養殖も難しいと言われています。弊社で販売しているスズメバチの加工食品も、100%天然モノです。
三橋さんはTAKEO株式会社で製造や食品開発、広報などを担当する傍ら、「むし畑」でバッタを養殖する
――なるほど。ではコオロギのほかに養殖がしやすい昆虫を挙げるとするなら?
日本では海外よりも需要が少ないのですが、ハエの幼虫であるマゴットや、アメリカミズアブの養殖は比較的簡単で、大量生産に向いていると言われています。これらは生のおからなど、湿った状態のエサがあれば飼育することができますし、コオロギよりも省スペースで飼育できる、と考えられています。
――では、三橋さんが養殖しているトノサマバッタ(以下バッタ)はいかがでしょうか?
それが、バッタの大量生産はかなり難しいんです。ぼくは2019年にバッタを育て始め、今年2023年で4年目を迎えます。デスクワークの片手間でやっているとはいえ、いまだに大量生産のできる目処が立っていません。
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バッタの養殖の難しさは「エサ」にあった!
――具体的に、バッタの大量生産はどういったところが大変なのでしょうか。
厳密にいうと、ぼくが選択している飼育方法が難しくて。現在はエネルギーを使わない、屋外のビニールハウスでの飼育を選択しています。コオロギと同様、室内で飼育すればまだ楽かもしれませんが、ビニールハウスの場合、温度管理の面でまだまだハードルが高いです。
また、フレッシュなイネ科の草を大量に食べるので、常に草を確保し続ける環境が必要になります。
――エサはどれくらいの頻度であげるのでしょうか?
秋から冬にかけてはバッタの活動力も落ちるので、2〜3日に1回与えるだけで問題ありません。逆に活発な夏場になると、1日に1回のペースでエサを与えています。
三橋さんの実家の庭に建てられた「むし畑」のハウス。三橋さんのご両親も協力しながらバッタを育てている
実は、通年で生えているイネ科の雑草ってないんです。だから、季節ごとに複数種を組み合わせながら、エサとなる雑草を確保する必要があります。
試行錯誤するなかで、ススキは他のエサに比べ可能性を感じました。茎を食べはしないものの、バッタの食べる葉の部分が大きくてバッタも良く育つんです。田んぼや畑にたくさん生えているので、確保しやすいところも魅力だと思います。
――イネ科の植物ならなんでもいいんですか?
栄養価が低過ぎてバッタが成長しない草や、与えると毒になってしまう草もあるので注意が必要です。コムギの葉は良いけど、オオムギは成長を阻害する、という研究があったりもします。
いまは春の草と夏の草、夏の草と秋の草……のように、常に並行して数種類の草を栽培し続けながら、時期ごとに最適なエサを追求しているところです。そして、通年で誰でも、簡単にバッタを栽培できるような「食事メニュー」の最適解を整えようとしています。
――意外とバッタはグルメなんですね。どの草を与えれば美味しく育つ、といった研究もされているのでしょうか?
まだエサと味の関係性は証明されていませんが「サトウキビで育てたバッタは甘くなる」と仲間から聞いたことはあります。
ただ、正直「どの草を食べるのか」で今は精一杯。弘前大学とも共同で「効率良くバッタを育てられるエサ」を研究開発しているので、これから解明できれば、と思っています。
ちなみにコオロギはエサを変えることで風味がかなり変わります。アーモンドを食べればアーモンドの風味がつくし、鶏のエサや魚粉由来のエサでも育てると、少し癖がある味になるんです。