石破茂(C)週刊実話Web

「そうか。数字はそんなに悪いのか」

石破茂首相は10月5日、自民党の選対幹部から連絡を受け、憮然とした表情でつぶやいた。

自民党は衆院解散を9日に控え、2日から5日間、全国の289小選挙区を対象に、サンプル数が1選挙区あたり1000人以上という大規模な情勢調査を秘かに行った。

その結果が、最悪の場合は前回2021年衆院選比で50以上減らしての「210議席以下もあり得る」という内容だった。

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「自民党の集計の仕方はいろいろあって、状況によって外に出す内容を変えている。これは『プラス5ポイント』集計で、勝っていても野党候補との差が5ポイント以内なら接戦とする集計の仕方だ。何か変な風が吹けば、その程度のリードはすぐに吹き飛ぶ。だから210議席もあり得るという計算だ」

党選対関係者はそう明かす。

だが、首相にショックを与えたのはこの数字だけではなかった。

「実はこの5日間に、約50人の裏金議員の選挙区では2回調査を入れている。その数字がたった2〜3日おいただけで、ほぼすべての選挙区で下がった」(同)

この下がり方に首相は強い危機感を覚えたのだ。

獲得議席が210議席以下だとどうなるのか。

衆院の過半数は233なので、解散時勢力で32議席の公明党次第では、与党で過半数割れスレスレになるか、場合によっては過半数割れもあり得る。

そうなると石破首相の退陣は必至となり、在任期間が歴代最短という汚名を着ることになる。

一時的にせよ、裏金議員を原則全員公認する方向に傾いたことへの有権者の強い反発と受け止めた首相は、直ちに森山裕幹事長と小泉進次郎選対委員長に、公認問題を厳しく対処するよう指示を出した。

こうして急転直下、裏金議員のうち12人を非公認、公認しても比例代表との重複立候補は全員認めないこととなったのだ。

「もし、このまま全員公認のまま選挙戦に入っていたら、底が割れる可能性があった。後に党本部が非公認候補が代表を務める政党支部に『支部活動費』として2000万円を支給していたことが発覚して大騒ぎにはなったが、当時は『ギリギリのところで踏みとどまった』と永田町関係者の間でも評判だったのです」(同)

「造反の可能性が排除できない」

一方、石破首相と森山氏の懸念は別のところにもあった。森山氏は6日、日曜日にもかかわらず自民党本部で首相や小泉氏らと裏金議員への対応を詰めた際、首相に伝えたことがあった。

9月の党総裁選の決選投票で、わずかな差で総理・総裁の座を逃した高市早苗前経済安全保障担当相が「造反する可能性が排除できない」とする、近畿地方のある党県連からの情報だった。

裏金問題で強い逆風にさらされた今回の選挙では、自民、公明両党で何とか過半数を上回ったとしても、選挙後の特別国会における首相指名選挙で、一部の議員が棄権するか野党党首に投票すれば、石破首相は過半数を得られない。

実際に造反しなくても、そうした姿勢を見せることで「石破おろし」を仕掛けることができる。

情報は、公認問題で石破首相への反発を強めた高市氏らが、選挙結果次第ではまさにそうした行動に出るのではないかというものだった。

政府関係者によると、「類似の情報が公示後に内閣情報調査室からも上がってきた」という。

選挙戦では、全国の裏金候補から応援依頼が殺到している高市氏は、それこそ日本中を飛び回っている。

そうした高市氏と連携する形で、総裁選で高市氏を強力に支援した保守系の民間組織や団体が裏金候補を集中支援している、という情報であった。

「当選させて勢力を維持し、首相を揺さぶるためだろう。一部の候補は、あれだけ批判されたのに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関わりのある人たちからも支援を受けている」(同)

一連の情報を裏付けるように、先の大規模調査では落選確実だった裏金候補のうち、組織的支援を受けたことが確認されている候補は、公示後の12〜14日に自民党が行った調査では「軒並み数字を上げてきた」(同)というのだ。

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高市一派の抑え込みに創価学会票

こうした状況を受け、首相と森山氏はさっそく「造反封じ」への布石を打ち始めた。

同関係者によると、総裁選における高市氏陣営の中核メンバーのうち当選する可能性がある候補者らに、党選対幹部を通じて選挙後の要職起用を打診した。

それが「北陸信越エリアと近畿エリアのメンバーだ」(同)という。

この2人については、総裁選後に高市氏が石破氏からの党総務会長ポストを固辞した際、高市氏が「2人とも当選回数から言って大臣適齢期だ。入閣させてほしい」(同)と要請していた経緯もあった。

さらには、立憲民主党の候補に押され、苦戦している東京西部の旧安倍派の実力者が当選圏内に浮上できるよう、森山氏から公明党サイドに水面下での支援を要請。この選挙区で公明党は5万票ほど持っているとされ、要請が奏功したのか、12〜14日の調査では「数字が逆転して、立憲民主党候補を10ポイント近くも引き離した」(同)

要職への起用を打診した狙いは、そもそも高市氏からの入閣要請があったとはいえ、造反予備軍の切り崩しだ。

公明党の支援取り付けは、この実力者が当選した暁には、造反メンバーを抑え込んでくれることを期待しているからにほかならない。

「彼は選挙戦が始まってすぐに、公明党の支持団体である創価学会の地元幹部のところに出向き、平伏して感謝の意を伝えた」(同)

公明党からの裏金候補に対する水面下支援はこれにとどまらない。

「落選確実なのは除いて党選対が一人一人、造反しないかどうかの確認をしている。確認できた候補から順次、公明党サイドに支援を要請している。その数は選挙戦の中盤段階で10人ほどになっていた」(同)