プロ野球新人選択会議(ドラフト)が10月24日に行われた。注目度No.1の宗山塁(内野手/明治大)は5球団競合の末に、楽天が交渉権を獲得。投手では最高の評価を受けていた金丸夢斗(関西大)は4球団競合で中日が、2球団競合の西川史礁(外野手/青山学院大)はロッテが当たりクジを引いた。各チームの選手の評価や戦略が分かれた中、果たしてどのチームが高評価を得たのだろうか。
<広島:85点>
セ・リーグで最も理想的なドラフトを展開したのが広島だ。1位入札で地元出身の宗山の抽選を外したものの、そこから軌道修正。青山学院大のスラッガー外野手・佐々木泰を単独指名した。懐の深い打撃は広角に長打を量産でき、左バッターが居並ぶ広島にとっては、将来の主砲候補としてうってつけの選手だ。
2位では先発型のサウスポー佐藤柳之介(富士大)、3位で岡本駿(甲南大)と大学生投手を獲得すると、4位には渡辺悠斗(富士大)を指名してさらに右の強打者を補強。チームのバランスを見事に整え、5位には将来性豊かな右腕・菊地ハルン(千葉学芸高)の名を呼んだ。投手力の厚みにスラッガーと補強ポイントをうまく埋める指名だった。
<中日:80点>
4球団競合の金丸の当たりクジを引いた中日も評価は高い。2位でも社会人トップクラスの即戦力左腕と名高い吉田誠弥(西濃運輸)を指名。小笠原慎之介がメジャー移籍を表明し、かつてのエース大野雄大にも陰りが見えている中で、貴重なサウスポーのダブル獲得に成功した。さらに4位でスキルの高いスラッガー森駿太(桐光学園高)を指名。森野将彦のような選手に育てたい。とはいえ、これほど高い順位とはやや意外だった。
4位では日本生命の正捕手・石伊雄太の名前を呼んだが、2021年と22年のドラフトでは高校生捕手を指名している。さらに捕手のトレードも繰り返しているだけに、扇の要に対するビジョンが見えないのはマイナス。これで100点満点のドラフトが一気に価値を下げてしまった。
<ヤクルト:75点>
今季リーグ5位に終わったヤクルトは、1位で最速160キロの中村優斗(愛知工業大)の一本釣りに成功。2位ではモセイエフ・ニキータ(豊川高)を指名。青木宣親が引退したばかりだけに、バットコントロールに長けた選手を獲得したのは大きい。
3位で荘司宏太(セガサミー)を指名して投手を強化し、4位で田中陽翔(健大高崎高)、5位で22歳の捕手・矢野泰二郎(愛媛マンダリンパイレーツ)を指名。補強ポイントを的確に埋めた広島や、ビッグネームの当たりクジを引いた中日ほどの点数はつけられないとはいえ、世代交代を推し進めたい狙いはしっかり見えた。
<巨人:70点>
4年ぶりのリーグ制覇を果たした巨人は、金丸を抽選で外した後に高校生No.1遊撃手の石塚裕惺(花咲徳栄高)の交渉権を、西武との競合を制して引き当てた。坂本勇人の再来と評判のスラッガーを獲得できたことで、新たな未来を迎えることができる。10年後には今年のドラフトをしみじみとを振り返る日が来るだろう。
だが、2位で九州産業大の遊撃手・浦田俊輔、3位では上武大の荒巻悠と、その後も続けて内野手を2人を指名。門脇誠や中山礼都らが台頭しているだけに、ややスカウトのスタンドプレーが目立つ。巨人がドラフトでよくやる手法ではあるが、余剰戦力にならないか危惧される。
<DeNA:70点>
レギュラーシーズン3位からの“下剋上”で日本シリーズ進出を果たしたDeNAは、3位までにいずれも即戦力の3投手を指名。目先の強化に走った印象だ。1位の竹田祐(三菱重工West)は2度の指名漏れを経験した苦労人で、明治大で日本一を経験したことがある伊勢大夢や入江大生らと再びチームメイトになる。
2位で指名した法政大の篠木健太郎も実力者で、投手陣を活性化するだろう。6位の坂口翔颯(国学院大)は春に肘の故障で評価を下げたが、本来なら上位指名の可能性もあった逸材。来年のリーグ制覇を狙うためのドラフトにはなったが、将来を考えるとやや不安が残るのも事実だ。
<阪神:65点>
1巡目で金丸の抽選を外した阪神は、今年になって急速に評価を上げた伊原陵人(NTT西日本)を指名。智弁学園高出身とあって、村上頌樹や前川右京ら同校のOB組との共闘に期待したいのだろう。2位で地元・報徳学園高の今朝丸裕喜の指名したのは大きい。
3位で木下里都(KMGホールディングス)と立て続けに投手指名になったのは、投手出身の藤川球児新監督の影響もあるのだろうか。4位では町田隼乙(捕手/埼玉ヒートベアーズ)、5位は佐野大陽(内野手/富山GRNサンダーバーズ)と、下位で独立リーグの実力者を補強。捕手と遊撃手の課題に向き合ったのはいいが、育成が上手くないことに対する埋め合わせの意味合いが強いようにも思えるのがマイナスだった。
<日本ハム:90点>
宗山を抽選で外した後に二刀流が可能な柴田獅子(福岡大大濠高)の交渉権を獲得。才能に満ちあふれ、どう成長していくかワクワクする選手の指名に成功できたのは大きい。野手陣が軒並み成長中で、これから充実期を迎えていくチーム事情もあって、投手を中心にドラフトを展開できたのも極めて高評価だ。
3位で指名の浅利太門(明治大)は、将来的にはリリーバーとしてフル回転してくれるはず。2位の藤田琉生(東海大相模高)、4位の清水大暉(前橋商高)はともに190cmを超える長身の素材型。伸びればとてつもない存在になるかもしれない。
<ソフトバンク:85点>
宗山、柴田と2度抽選を外したソフトバンクだが、その後が見事だった。外れ外れ1位で甲子園出場はないものの、評価の高かった右腕・村上泰斗(神戸弘陵高)の交渉権獲得に成功。2位では俊足が持ち味の大学生遊撃手・庄子雄大(神奈川大)を指名した。
ソフトバンクはもともと二遊間が補強ポイント。庄子のみならず、宇野真仁朗(早稲田実業/4位)、石見颯真(愛工大名電高/5位)と世代交代も見据えた選手も指名した。一方で、安徳駿(富士大/3位)岩崎峻典(東洋大/6位)ら早いうちに戦力になりそうな大学生投手を指名したのは見事という他なかった。リーグ優勝チームらしい粋な指名と言える。
<ロッテ:75点>
大学生No.1スラッガーとの呼び声高い西川史礁(外野手/青山学院大)を抽選で引き当てたのは大きい。昨年は度会隆起(DeNA)に1位入札して外すなど、外野手の課題解決に難があったからだ。若手の育成が順調に進んでいなかったが、西川の加入で大きく変わるかもしれない。
その一方で、190cmの長身から最速153キロを投げ込む一條力真(3位/東洋大)、緩急に長けた坂井遼(4位/関東一高)、大学で11キロも球速がアップして最速153キロに到達した廣池康志郎(5位/東海大九州キャンパス)と立て続けに指名。やや地味ながら、厚みの欲しかった投手陣の強化もできたのではないだろうか。
<楽天:75点>
やはり、5球団競合の末に宗山を獲得できたことがかなり大きい。楽天は野手陣は充実期を迎え、小郷裕哉、辰己涼介がチームの軸に。浅村栄斗、鈴木大地ら移籍組が脇を固める形ができつつある。そこに宗山が入ることでますます戦力に厚みを増すことだろう。
さらに2位の徳山一翔(環太平洋大)をはじめ、即戦力の投手陣も2~4位まで続々と指名。交流戦を制覇しても監督が解任になる厳しい環境が、おそらく数年後よりも目先の強化に走らせたのだろう。まずは来季の優勝を目指すというチーム作りをしている印象で、その結果次第で評価も大きく変わりそうだ。
<西武:70点>
宗山→石塚と2度の抽選を外した不運さが印象としてあるが、チームビルディングの観点での構成はそれほど悪いドラフトではなかった。高校屈指の遊撃手と名高い外れ外れ1位の斎藤大翔(金沢高)に加え、狩生聖真(3位/佐伯鶴城高)、篠原響(5位/福井工大福井高)と高校生投手を2人指名し、将来的に手薄になるであろう右腕を補填。大阪商業大の渡部聖弥と日本経済大の林冠臣で、外野の活性化を狙ったのも至極納得がいく。
ただ、リーグ最下位で指名の優位性を活かせたとは言い難い。大物の宗山を狙うか、二遊間の二人を狙うかの選択で宗山に走ったと思うが、石塚と斎藤大翔の両獲りを目指すような、スケールの大きな指名がほしかった。
<オリックス:65点>
右のスラッガータイプの外野手は補強ポイントだっただけに、1位で西川史礁(青山学院大)を狙いに行ったのは評価できる。とはいえ、抽選を外して次に指名した麦谷祐介(富士大)は左の好打者タイプで同学年の来田涼斗と重なるため、出場機会を食い合う可能性が大いにあるのがマイナス。
麦谷と4位の山中稜真(捕手/三菱重工East)以外は全員投手。かなり好素材を集めた印象だが、すでに投手の枚数は充実しているだけに、ここまでの指名は多すぎる印象だった。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。