「ホームマウンテンを持たない強み」|バックカントリーガイド 照井大地-Daichi Terui-

あえてホームマウンテンを持たない

現在、照井は34歳。札幌と安曇野に拠点を構え、日本各地でスキー・スノーボードツアーを主宰している。道北と道東、地元東北の山を得意としているが、あえて、ホームマウンテンを持たない。それには理由がある。

「岩、土、木……自然のなかでは、雪がいちばん不安定で不確実なものです。さらに、気候変動で、気象がさまざまに変化する昨今、いろいろな地域の、いろんな雪質を知っていたほうが、いざとなったときに安全マージンをとることができると思います。
ローカルだからわかることがあると同時に、ローカルだから気づかないこともある。いまは、いろんな雪質、地形、天候、あらゆる情報を吸収して、経験を積む時期だと思っていて。吸収があらかた終わってから、自分のホームマウンテンが決まるのかもしれません」

山が変わってもやることは同じだという。一般的な町の天気予報や「Windy」、専門気象情報「地球気」から情報を取り入れて、自分なりに咀嚼して、その日のメガネを作る。そのメガネで現場を見て、安全か否かをジャッジして、お客さんの表情をうかがいながらコミュニケーションをとってガイドを進めていく。

「山に入るときは、いつもいい意味で緊張し、すごく慎重になります。『今日は普通じゃない』といつも自分に言い聞かせて準備します。数日前から天気予報をチェックしたり、地元の仲間から情報をもらったり。
ホームがないから新しい発見も多々あって、お客さんと同じ目線で雪山を楽しむことも。でも、自分の性格上『ヒャッホー!』というテンションにはなれず、感情を顔に表さぬまま淡々とガイドしていますね」

破天荒な「あやしい探検隊」を愛読してきたわりには、慎重で実直。いかにも東北人らしい謙虚さとひたむきさが、照井の根底にはある。

師匠である石坂ガイドは、照井をこう評価する。
「照井くんは、真面目で研究熱心。何事にも恐れず挑戦していく姿勢がとても良いと思います」

日本の各地の自然や風俗だけでなく、新しいギアやウエアについても勉強し、それを自分の糧として積み上げていく。
日本を飛び回り、いろいろな人や歴史、風土と交わることで、ガイドである前に人間としての器を深く、広げている過程だ。

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ガイドとして必要なメンタル・セルフケア

照井には雪山へ向かう車内で毎朝心がけていることがある。客観的な視点で自分を見るメンタルチェックだ。

「たとえば、お客さんにいい雪を滑らせられないと、焦りが募ります。それが、自分の平常心を犯していないか? そんな焦りや疲れが、判断を鈍らせていないか? 運転する車のなかで自問自答して、ニュートラルなメンタルに持っていきます」

シーズン中の1、2月は、休日なしで毎日雪山へ向かう。いくら若手とはいえ、毎日となれば疲れやストレスは溜まる。体のケアは意外や意外。さらに体を動かすことだった。

「体が張ったり、硬くなったりした部位を重点的にストレッチしています。あと、時間があれば人工壁へ登りにいきます。スキーでは使わない筋肉を動かすと、体がほぐれて、不思議と疲れが抜けるんです。
例えば、腕を真上のホールドに伸ばすと、ザックの重みやストックワークで凝り固まった首や肩の筋肉がほぐれていく。手元の横のカチへ足を上げると股関節が開いて、可動域が広がる。あと、仲間と会話したり、課題のことだけを考えると、雪山から離れて心身のリフレッシュにもなります」