「ホームマウンテンを持たない強み」|バックカントリーガイド 照井大地-Daichi Terui-

泳ぎ続けないと

照井は、泳ぎ続けないと死んでしまうマグロのような人だと自らを笑っていう。繁忙期が終わり、春になったら自分の山へ行く時間だ。

「ガイド山行とは違うスイッチが入ります。テントを持って長期で山に浸り、垂直移動のクライミングを取り入れて、自分の持っているものを出し切る時間です。去年から鹿島槍ヶ岳の北壁を狙っています」

物心ついたときからスキーを履き、19歳からはじめたATスキーは、今年で15年目。山岳移動の最大なる武器として、自分のモノとなり、北アルプス最難クラスの斜面へ挑むまでに上達した。

「山岳ガイドは黒子だと思っています。主役はお客さんで、彼らの一歩一歩が頂へと近づく。登っているのは紛れもない本人で、ガイドはそのお手伝いしかできない。頂に立ったとき、気持ちいい斜面を滑ったとき、みなさんの笑顔を見て、僕も嬉しい気持ちになる。この仕事をしていてよかったなぁと思える瞬間です」

照井は、こうと決めたら脇目を振らずに突っ走る行動力と、石橋を叩いて渡る慎重さをバランスよく持ち合わせているガイドである。このバランスは、ガイドにとって最も大事な素養と言えるだろう。ゲストは、自らの力量では立てない世界へ連れて行ってもらえることをガイドに期待する。そして、ガイドはその期待に応えるべく尽力する。そこには当然危険が生まれる。気象、メンバー、雪質、さまざまな事象を咀嚼して、事故が起こらないところで行動や地形に「ここまで!」と線を引く。

命あっての遊び。その線は慎重すぎる方がいい。遠慮がちなほうがいい。人間臭いほうがいい。
場が和む。照井はそんなガイドである。

Profile】

照井大地(てるい・だいち)

1990年、岩手県花巻市生まれ。高所のバリエーションルートから小屋泊スキーツアーまで、オールシーズンで活躍する山岳ガイド。幼少期からクロスカントリースキーに打ち込み、19歳にしてはじめてATスキーを履く。
BCで得意とする山域は、北海道の道北と道央、地元の東北エリア。拠点を札幌と安曇野に設け、全国各地で人と山を繋ぐガイドを行う。

保有資格:日本山岳ガイド協会認定(JMGA)
・山岳ガイドステージⅠ
・スキーガイドステージⅡ

Terui Daichi
公式サイト:https://teruidaichi.com/
公式SNS:Instagram|Facebook|You tube

Text by 森山伸也