約300点の贋作を制作。「画家の数は120人だ」
だが、ベルトラッキ氏は「天才贋作師」と呼ばれるだけあり、画風を自分のものにした画家は1人だけではなかったようだ。まったく異なる作風の『自転車乗り』を購入した徳島県立近代美術館の竹内利夫課長(学芸交流担当)は、次のように説明する。
「作者とされたメッツァンジェは、自転車を題材にした絵を複数残しています。画家は、気に入った画題を見つけると、手を替え品を替え、いろいろ描くことがよくあるんです。この絵もその一つだと言われれば、こちらとしても『なるほどな』と。
また、以前メッツァンジェの研究者が目録を作る準備をしており、問題となっている絵に対して『この作品も目録に載せるつもりです』という内容の鑑定書といえる文書を、前の所有者に向けて書いていました。今でもその鑑定書が真正であると認識していますし、これを根拠に疑いがないものだと考えてきました」(竹内氏)
ここでも、研究者の判断が大きな信頼の決め手となっていた。
ただ、この目録は結局、完成せず、研究者の資料を受け継いだメッツァンジェ作品の権利保護に取り組むフランスの団体は、問題の絵を作品リストには加えていない。
徳島県立近代美術館が購入したあとにベルトラッキ氏の事件が発覚し、贋作だと判断した可能性がある。
ベルトラッキ氏は今回の問題発覚後、複数の日本メディアに対し、徳島と高知の2作品について「私の絵だ」と主張した。また、1970年代から約300点の贋作を作っており、「画家の数は120人だ」と豪語している。
だが、徳島県と高知県は、ベルトラッキ氏の発言だけでは贋作だと決めつけることができない状況にある。なぜなら、ニセモノを売り歩いた人物だけに、その言葉に信頼を置くことが難しいからだ。
絵の購入には税金が投入されており、贋作と断定するためには客観的な根拠が必要になる。使われている絵の具の組成を調べることも検討しているが、明確な結果が得られる保証はない。
制作から数十年を経て、所有者が贋作の疑いに気づいた美術作品。その負の側面が拡大するのは、これからだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班