日本開催の女子テニスツアー最高グレードの「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント 2024」(10月21日~27日/東京・有明/ハードコート/WTA500)は27日、シングルスとダブルスの決勝が行われた。シングルス決勝のカードは、パリ・オリンピック金メダリストで世界7位のジェン・チンウェン(中国)対、2020年全豪オープン優勝者のソフィア・ケニン(アメリカ)。試合は7-6(5)、6-3でジェン・チンウェンが勝利し、同大会初優勝を果たした。
マッチポイントで、ケニンが放ったショットがコーナーの際どい所に落ちると、ジェン・チンウェンは手をスッと上にかざし、自陣営に笑みを向けた。それは、ボールはアウトであることを……、すなわち、勝利を確信したジェスチャー。そのまま試合終了の握手をするため、ネットへと歩みを進めた。
ただケニンはベースラインに留まって、「チャレンジ=ビデオ判定」を要求する。
「私は、アウトだと確信していた。これくらい、ラインとボールは離れていると思ったから」
試合後の会見で、世界7位は、指と指の間を5センチほど広げる。
ただ、実際にコート内のスクリーンに表示されたビデオでは、ボールの落下点は限りなくラインに近い。映像は徐々にクローズアップし、わずかにボールがラインを割っていたことを示した。
「あんなに際どいとは、思わなかった」
会見の席で、勝者は苦笑いを浮かべた。
マッチポイントを巡るこのシーンは、この日の試合を象徴していたかもしれない。前日、シングルス準決勝でケニンは右足を痛め、同日のダブルス準決勝は途中棄権。痛みからか無念のためか、涙を流しコートを去るその姿に、決勝の出場すら危ういかに思われた。
そのケニンの情報は、当然、ジャン・チンウェンの頭にも入っていただろう。加えて決勝戦は、開始直後の降雨のため、わずか4ゲームの間に二度の中断に見舞われた。
見通しの立ちにくい、決戦の幕明け。ところが、屋根の閉まったセンターコート上でのケニンは、サービスの切れ味鋭く、3球目以降の展開も早い。深く左右にボールを打ち分け、時おりドロップショットも沈めてみせる。周囲の不安に反し、試合は頂上決戦に相応しい緊張感に満たされた。 試合が進みスコアボードには、並走状態で数字が光る。ただ、全体としてジャン・チンウェンが押しているように見えたのは、サービスの優位性ゆえだろう。高い打点から快音響かせ、時速180キロを超えるサービスを、次々にコーナーに叩き込む。もつれ込んだタイブレークでも、やはりサービスの威力が生きた。第1セットを競り勝った世界7位は、第2セットに入るとより闘志を高ぶらせ、声を出してボールを叩く。第2ゲームをブレークし、3ゲーム連取で一気に頂点への距離を詰めた。
それでもケニンも、追いすがる。第7ゲームでは、この日唯一のブレークポイントまで漕ぎつけもした。だがこの場面でも、ジャン・チンウェンのサービスが唸る。センターへのサービスウイナーで危機を切り抜けた時には、気合いの叫びが響く。その声に呼応して、スタンドのいたる所で中国フラッグが揺れ、「チャーヨー(加油)」コールが沸いた。
「ファンの応援が力になった」と振り返る中国のスター選手が、頂点に君臨した。
今季の全豪オープン準優勝、そしてパリ・オリンピック金メダル獲得により、母国での知名度と人気は急上昇。今大会前に中国開催のツアーに出場した際は、ホテルの部屋の前に二人のセキュリティが立つほどの、ジャン・チンウェンフィーバーが巻き起こった。誰が呼び始めたか、ニックネームは「クイーン=女王」。彼女の名を英語表記した際の“Qinwen”が、Qweenに似ているのが由来だ。
その女王見たさに今回の東レPPOにも、中国からファンが駆け付けた。銀座を歩いていた際にも、中国人観光客に、サインと写真を求められたという。重圧も当然、あったろう。その中で勝ち取った今大会のタイトルは、まさに、女王の証明だった。
取材・文●内田暁
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