画像はAIで生成したイメージ

栃木県某所にある平屋造りの賃貸住宅。ここで15年前から暮らす住民のAさん(40歳)によれば、この家には「実際の地震が来る数分前に揺れる」という、地震を予知する部屋があるらしい。

「建物の真ん中に位置するリビングがその部屋になります。初めて予知地震(※Aさんはこう呼んでいる)を感じたのは2011年の東日本大震災の時でした。その日僕は体調を崩していたので、会社を休んでリビングのソファで横になっていたんですが、突然すごい勢いで部屋が揺れたんですよ」

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Aさんは慌てて飛び起きたというが、すぐに違和感に気づく。

「激しい揺れのせいで、僕はまともに立つことも歩くこともできなかったのに、家具とか物が微動だにしていないんです。つまり僕だけが揺れを感じている状態でした。なので、最初はめまいか立ちくらみかなとも思ったので床に座り込んだんですが、やっぱり揺れているんです。夢でも見ているのかと思って、そのままボーッとしていたら、10分もしないうちにまた地震が来ました。揺れは先ほど感じたものと同じでしたが、今度は照明器具が大きく振れ、机が左右に動き始めたかと思えば本棚が倒れてくるなど、本物の地震でした」

この1回だけであれば、Aさんも「不思議な体験だったな」で済ませたかもしれないが、奇妙にもその後も同じようなことが続いたという。

「予知地震は5秒から10秒続きます。その後、早くて5分、遅くても10分後には本地震(※前同)がやってくるという感じです」

にわかには信じがたいところだが、Aさんは「たまたま撮影していた」という動画を筆者に見せてくれた。

日付は2022年3月16日、時刻は23時31分とある。

「この時はたまたまスマホをいじっていたので、すぐに録画ボタンを押せたんです」

画面にはリビングの様子が映っていたが、見た目では揺れている様子は伝わって来ない。

動画にはAさんがよろめいたり、焦っている様子が残されているだけだ。

恋人が「リビングが揺れてるんだけど…」

「これだと、僕がふざけているようにしか見えませんよね? では続きの動画を見せますね」とAさんが再生してくれたのは23時39分に撮影されたもので、家の中の様子から明らかに強い揺れが来ているのが伝わってきた。

ちなみにAさんのリアクションは先ほどの「揺れているのがまったく伝わらない」動画と同じである。

「信じてもらえないかも知れませんけど、これが唯一残っている証拠です」

Aさんはこう語るが、実は証拠と言えるものがもうひとつ存在していた。

Aさんと恋人B子さんのラインである。

「今年の3月21日のことでした。時間は9時ちょうどくらい。その日は2人とも仕事が休みだったので前日から一緒に過ごしていたのですが、僕がコンビニに朝ご飯の買い出しに出かけている時にB子から『ねえ、リビングが揺れてるんだけど…』とラインが来たんです」

Aさんが筆者に見せてくれたラインの画面には、次のようなやり取りが残されていた。

Aさん:揺れてるのはリビングだけ?

B子さん:そう。寝室とか玄関では感じない

Aさん:モノとか家具は揺れてる?

B子さん:ううん。リビングと私だけが揺れてる。ひょっとしてこれが例の予知地震?

Aさん:そうだと思う。揺れは強い?

B子さん:けっこう強い。震度4とか5くらい?

Aさん:危ないからすぐに外に出た方がいい!

B子さん:分かった

慌ててAさんが自宅に戻ると、家の外に立っていたB子さんがAさんに向かって駆け寄って来た。

その瞬間本地震がやって来たという。

調べたところ、気象庁の発表ではAさんの自宅周辺の震度は4だった。

「地震の予知はせいぜい10分前くらいですが、心の準備はできるし、必要なものを持ち出すとか、車に積み込むくらいは十分可能です。僕の話を信じてくれる人には注意喚起もできます」

南海トラフ地震の発生に怯えている人が多い今、10分前とは言わず10日前に予知がなされれば混乱はかなり避けられるはずだが、そう都合良くはいかない。

ただ、現在の科学では不可能と言われている「地震の予知」を「する」部屋は、確かに実在するようである。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。