国際宇宙ステーションでトマト紛失事件が発生 / Credit:NASA_ISS astronauts find tomato that was lost in space for 8 months (video)(2023 Space.com)

宇宙空間にポツンと浮かぶ「国際宇宙ステーション(ISS)」は、人が簡単に行き来できない「閉ざされた場所」です。

ここではさまざまな実験が行われていて、宇宙で栽培されたトマトは地球とは異なる可能性があり、トマトといえど貴重な研究物資です。

そんな密室で「貴重な宇宙トマトが無くなった」となれば、それは誰かが食べてしまったと疑われても仕方がありません。

ISSで働く宇宙飛行士フランク・ルビオ氏は、数カ月もの間、宇宙トマトを盗み食いした容疑者として扱われてきました。

ところが2023年12月6日、ISSの25周年を祝うライブストリーミングイベントにて、「彼の無実が証明された」と報告されました。

宇宙飛行士たちの“からかい”の的になった「ISS 宇宙トマト紛失事件」の真相についてご説明します。

目次

宇宙ステーションで生じた「トマト紛失事件」とその顛末

宇宙ステーションで生じた「トマト紛失事件」とその顛末


国際宇宙ステーションで葉物野菜を育てるプロジェクト / Credit:NASA

国際宇宙ステーション(ISS)では、「Veg-05」と呼ばれるプロジェクトが進行していました。

このプロジェクトは、「ISS内で特定の野菜を栽培し、生産性や安全性を分析・評価する」というもの。

将来、「宇宙で新鮮な野菜を栽培し食料とする」ためにも欠かせない実験です。

これまでにいくつかの葉物野菜の栽培に取り組んできましたが、「Veg-05」では、草丈が非常に低いミニトマト「ドワーフトマト」の一種である「レッドロビン」が栽培されました。


宇宙で栽培されるトマト / Credit:NASA

そして2023年3月29日、ISSで栽培されたトマト(いわゆる「宇宙トマト」)は収穫され、各宇宙飛行士にサンプルが渡されました。

ところが、サンプルを渡された宇宙飛行士1人、フランク・ルビオ氏が、なんとこのトマトを無くしてしまったのです。

そのためISSの宇宙飛行士たちは、「ルビオ氏がつまみ食いをしたのだ」とからかいました。

密室であるISSでトマトが消えたとなれば、「トマトの行く場所は限られており、きっとその行方は、とぼけているルビオ氏のお腹の中に違いない」というわけです。

もちろん、これは冗談です。本来ならこの宇宙トマトは、宇宙栽培の影響を調査するために地球へ送られ成分分析に掛けられます。そのことを理解している宇宙飛行士が気まぐれで宇宙栽培のトマトを口に入れてしまうわけがありません。

逆に言えば密室でなくしたトマトはすぐに見つかるだろうと誰もが考えていたのでしょう。

しかし、結局トマトは見つからないまま、ルビオ氏は地球へ帰還することになってしまいました。

こうしてルビオ氏は、「ISS 宇宙トマト紛失事件」の盗み食い容疑者となってしまったのです。


国際宇宙ステーションでトマトと一緒に写真に写るNASA 宇宙飛行士フランク・ルビオ氏。後に容疑者となる…… / Credit:NASA_ISS astronauts find tomato that was lost in space for 8 months (video)(2023 Space.com)

容疑者である彼は、2023年9月のライブストリーミング中に、「あれを探すのに、私は何時間も費やしました」と冗談を述べており、「何年か後に乾燥トマトが現れて、私の正しさを証明してくれると確信しています」と続けました。

そしてルビオ氏の容疑が晴れないまま計8カ月以上が経過した時、ついに事件の真相が明らかになりました。

2023年12月6日、ISSの25周年を祝うライブストリーミングイベントにて、ルビオ氏の友人であるNASAの宇宙飛行士ジャスミン・モグベリ氏が、消えた宇宙トマトの謎について、笑いながら言及したのです。

「私たちの友人であるフランク・ルビオは、トマトを食べたとして長い間、非難されてきました。

しかし、私たちは彼の無罪を証明することができます。

私たちはトマトを見つけたのです」

ちなみに彼女は、見つかったトマトがどんな状態だったか、ISSのどこにあったのかを詳しく説明しませんでした。


小さなトマトがISS内で見つからないのも無理はないのかも / Credit:NASA

トマトはルビオ氏が食べる間もなく、ISSのどこかに漂っていったのでしょう。

NASAによると、ISSは寝室が6つある家よりも広く、その中には25年間で蓄えられた様々な機材が配置されています。

さらにISSには重力がなく、そんな空間の中を「ミニトマトは浮遊してどこにでも忍び込むことができる」のです。それを見つけるのは簡単ではありませんね。

しかも、何百もの科学実験を行っているクルーたちが、トマトの探索に多くの時間を費やすことはありません。

こうした要素が重なり、ISSという密室の中でミニトマトは8カ月もの間、見つかることがなかったというわけです。

この「宇宙トマト紛失事件」は、ISSで働く人々を楽しませる「笑い話」でしたが、その元にあるVeg-05プロジェクトは、宇宙飛行士、そして人類にとって非常に重要なものです。

NASAによると、Veg-05で収穫できたトマトはたったの12個でしたが、地球で並行して行われた実験では100個以上の収穫がありました。

ISSと地球における収穫量のギャップを埋めていく必要がありそうですね。

ちなみに過去には、アメリカのコールド・スプリング・ハーバー研究所にて、「宇宙船内での栽培に適した遺伝子編集トマト」が開発されたこともあります。

今後も安全性と生産性を兼ね備えた宇宙トマトの栽培実験は続いていくことでしょう。

とはいえ、次の実験では、また誰かが盗み食いの容疑者とならないよう、余分の注意が必要かもしれません。

参考文献

ISS astronauts find tomato that was lost in space for 8 months (video)
https://www.space.com/international-space-station-lost-tomato-frank-rubio-found

Lost in space no more: missing tomato found in space station after eight months
https://www.theguardian.com/science/2023/dec/09/space-orbit-mystery-international-space-station-tomato

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。