【日本シリーズ第2戦】「僕の中ではカーブを打ったという感覚はなかった」――試合を決めた山川穂高の狙わないカーブ打ち<SLUGGER>

 DeNAからしてみれば痛すぎる一発だった。

「追い込むまではいい形で追い込んだんですけどね、最後のカーブがちょっと肩口から甘くいって、先制点がちょっと大きなものになりました」

 三浦大輔監督はそう悔しがった。

 ソフトバンクが先勝して迎えた日本シリーズ第2戦。この試合で注目されたのはDeNAの先発・大貫晋一がどこまでソフトバンク打線を封じられるかだった。前日はソフトバンク快勝の展開から、9回にDeNAが3点を返す「あわや」の場面を演出。もつれる展開に持ち込めば勝負は分からない。この日のDeNAはどのようにして期先を制するかが重要になるとみられ、大貫のピッチングにも注目が集まった。

 ソフトバンクは1回表、先頭の柳田悠岐がフルカウントから144キロのストレートに空振り三振。2番の周東佑京はライト前ヒットで出塁。3番の今宮健太はたった4球で空振り三振に倒れ、4番の山川穂高も空振り2つの2球で簡単に追い込んだ。ここまでは完全に大貫のペースに見えた。

 しかし、ボールを一つ挟んだ後の4球目のカーブがやや高めに浮くと、山川がこれを一閃。左翼スタンドにアーチをかけたのだった。
  2死一塁、山川に「長打を狙う」意思を持たせるシチュエーションだったとはいえ、追い込まれていたのにこうも簡単に放り込むシーンに野球の怖さを見た。

 なぜ、あそこで大貫がカーブを投げたのかという疑問もあるが、それをアジャストできたところに、山川の実力の高さを見た。

「思考が頭の中が整理できている状態なので、一つのことにフォーカスして取り組めていると思う。そういう意味では集中できていたかもしれないです」

 練習の虫で知られる山川のスウィング量は球界トップクラスとも言われる。ただ量を多くすることを目的としているわけではなく、いかに多くのボールに反応できるかを一番のプライオリティとしている。

「僕の中にはカーブを打ったという感覚はなかったです」

 いかにも山川らしい発言だが、そもそも打者にとってカーブという球はそもそも狙うという概念はないものだという。2021年の日本シリーズのMVPに輝いた中村悠平がこんな話をしている。

「カーブは狙っていなくても打たれてしまう可能性があるので、非常に怖いボールです。でも、例えばうちの小川(泰弘)だと配球が偏らないためにも、カーブを使わなければいけないと思います。カウント球だけではなく、勝負球としても使うようにしています」

 この言葉に意味を紐解くと、カーブの効果がさまざまに作用することが理解できると思う。
  投手の組み立てを考える上では使うべき球種であるという一方、狙っていなくても打ててしまう危険な要素があるということだ。狙って打つ打者は少なく、「タイミングがあった」と思った瞬間にうちにいくケースが多いのだ。

 では、山川はカーブの打ち方をどう考えているのだろうか。

「カーブはストレートを待って切り替えて打つのは難しい球になると思うので、ストレートの中間ぐらいで打つ。少し引き付けるぐらいの感じを持ってカーブが来ると対応しやすくなります。日本ハムの山崎福也の時も、ストレートを1・2・3で振りにいったらサードゴロになったり、当たらなかったりするので、非常に打つのが難しい球の一つだと思います。今日は1−2のカウントだったので、フォークも頭に入れながら意識していたので、対応できたかなと思います」

 山川がタイミングをずらされながらも溜めて打つというシーンを何度か見たことがある。過去、何回も彼の本塁打を見ているが、どこかにコツがあるような気もした。

 囲み取材が解けた後、さらに尋ねた。

――カーブという意識がなかったと言っていましたが、タイミングが狂った時、下半身を我慢してヘッドを走らせようと振るんですか?
 「いや、ゆっくり振ろうとします。カーブというか、ゆるい球のときは早く振ってしまうとバットが返ってしまってゴロになるかもしれないので、すーっと打つような感じでやるとホームランを打てるイメージがあるんですよね」

 ほとんどの打者が“狙わない”カーブはそうして山川の餌食になった。2点を先制したソフトバンクは3回にも3点を追加。4回に1点を加えて6点をリードした。

 5回からDeNAが粘り、見事な継投策でその後無失点。5回と7回で3点を奪って反撃に出たものの、序盤からのリードが大きくそのまま試合は決着した。

「何とか諦めずに食らいついていこうというところだったんですけども、前半の失点がとても大きかったですね」

 大貫ペースで進みかけた中での山川の一発。カーブの怖さを垣間見た第2戦だった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。