フィギュア世界王者が今季解禁された“バックフリップ”を披露して優勝も、カナダスケート連盟が異議「競技中はアリか、ナシか?」

 世界王者が演技中に披露した”危険な技”が小さくない物議を醸している。

 現地10月27日、フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第2戦カナダ大会は男子フリーが行なわれ、昨年の世界選手権で初の金メダルに輝いたイリア・マリニン(米国)がフリー195.60点をマークし、合計301.82点で優勝。開幕戦のアメリカ大会に続くGP連勝を収め、同シリーズの成績上位6人で争うGPファイナル(フランス・グルノーブル)への進出を一番乗りで決めた。

 ショートで唯一100点台と貫録の演技で首位発進したマリニン。自身の代名詞である大技・4回転アクセルは封印したものの、フリーで圧倒的な強さを見せつけた。

 冒頭の4回転フリップは回転不足と判定されたが、続くトリプルアクセルを華麗に決めると、3つ目の4回転ルッツはGOE(出来栄え点)3.78点と高い加点が付いた。4回転の予定だったループが3回転になるミスはあったが、後半は高さと幅のあるダイナミックなジャンプを次々と披露する。さらにスピンは最高評価のレベル4を獲得するなど、スケーティング技術はグンと向上。昨シーズンからの進化を示した世界王者が2位以下に40.66点差をつける盤石の演技で優勝を掴み取った。
  開幕2戦で早くも12月のGPファイナル進出を決めたマリニン。表彰台の真ん中で笑顔が弾けた王者は、実はカナダの観客を大きく沸かせたパフォーマンスを披露している。

 重厚な曲調が大きく盛り上がった終盤、体を激しく動かしながら情熱あるステップを踏んだあと、マリニンは後ろを向きながら勢いよく助走をつけて、なんと豪快なバックフリップ(後方宙返り)を敢行。今季から正式に解禁されたアクロバティックな技をバシッと決めると、観客は「おおおおお!!」と大歓声が上がり、世界王者に大きな拍手を送ったのだ。

 国際スケート連盟(ISU)も、この歴史的な瞬間に興奮を隠せなかった。公式SNSにマリニンの華麗なバックフリップ写真を添えて、「イリア・マリーニンがGPスケートカナダで金メダルに輝いた! ハリファックスでクワッドゴッド(マリニンの愛称)が忘れられない演技を披露し、圧倒的なリードで勝利を収め、ISUグランプリファイナルへの出場権を獲得した最初のスケーターとなった!」とレポート。世界王者が繰り出した技に賛辞を贈った。 ところが、このバックフリップには異議が唱えられているようだ。カナダスケート連盟の公式SNSが、このシーンに注目。「競技中のバックフリップは、アリかナシか?」と綴り、一歩間違えれば大怪我をするリスクがある危険と隣合わせの技を敢行したマリニンの演技を疑問視。フォロワーに是非を問いかけると、同連盟のコメント欄は「まったく問題ない」「美しいバックフリップだわ」「子供たちが真似してケガしたらどうする」「非常に危険。ハラハラして見てられない」など、賛否が分かれている。

 昨シーズンまで、このバックフリップは競技会での使用は禁止されており、演じれば2ポイントの減点が下されていた。しかし、2024年の欧州選手権でフランスのアダム・シャオ・イム・ファが禁止されているバックフリップをあえて演じたことが、大きな波紋を呼んだ。減点覚悟で繰り出した技について同選手は当時、試合後の会見で「減点されることは分かっていました。だけど、この技を再び競技に戻して、このスポーツをもっとプッシュしたかったんだ」と答え、フィギュアスケートの新たな可能性を模索するためだと訴えた。

 彼の振付師ブノワ・リショーも「アダムは常に新しいことに挑戦し、このスポーツを進化させたいと思っている」と理解を示していた。当時は堂々とルールを無視したアダムの行為には批判的な意見も挙がったようだが、そのチャレンジ精神には好意的な声も少なからず寄せられたという。
  そしてISUは今年、米ラスベガスで開かれた総会で禁止技だった『バックフリップ』を今季から解禁する方針を発表。「2024-25年シーズンからは後方宙返りをした選手は、もうペナルティーを受けることはない」と説明している。

 バックフリップもひとつのバリエーションとして許可された今季のフィギュアスケート。ルールの範囲内で演じたマリニンにまったくの否はないが、危険な技であることに変わりはない。ゆえに、周囲からの理解を得るにはまだまだ時間がかかるかもしれない。

構成●THE DIGEST編集部

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