カジノに詳しいジャーナリストの高野真吾氏が、2030年の秋に開業が予定されている大阪IR事業についてあらゆる角度から検証を行った書籍『カジノ列島ニッポン』。本記事では書籍の中から、著者が建設予定地の夢洲を実際に歩いた様子を一部抜粋・再構成し紹介する。ゴミの焼却灰やスス、下水汚泥などが投棄されているエリアもある夢洲は、果たして本当に安全なのだろうか?
夢洲を歩く
コロナ下のとある週末の午前10時、僕は待ち合わせ場所として指定された大阪市住之江区のコスモスクエア駅にいた。
地図だと「夢洲」の東南にある「咲洲」に位置する。宿泊した同市中央区のビジネスホテルから、大阪メトロの谷町線と中央線を乗り継いでやってきた。コスモスクエア駅は中央線の大阪湾側の終着駅にあたる。
駅改札を出ると、「おおさか市民ネットワーク」代表の藤永延代さんが待っていた。事前の電話でのやり取りと同じく、元気な関西弁で挨拶される。連れだって駅を出ると、乗用車が1台迎えに来た。
「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表で阪南大学教授(会計学)の桜田照雄さんが運転席にいた。この日は桜田さんの車で夢洲を視察できるように、藤永さんが段取りをつけてくれていた。もちろん事前に大阪市に届けを出し、許可も得ている。僕が助手席、藤永さんが後部席に座って出発する。道路を走る他の車はまばらだった。
咲洲から夢洲に向かう「夢咲トンネル」をくぐり、夢洲に上陸。しばらく車を走らせると万博やIR予定地に入るための通行ゲートがあった。
手続きをして中に入ると、「構内右側通行」の看板があった。工事用車両が通過することから、道幅は広い。舗装されていないが、土の道路はきちんと整地されていて乗用車でも難なく走れた。
道の左右には、雑草がたくましく生い茂っていた。走り始めてしばらくの地点で車を止める。IR建設予定地側を見ると、奥のほうに黄色い重機が1台ポツリ。まさに整地の最中なのだろう。山型にもられた土と平らにならされた土が、エリアごとに混在していた。北側のIR建設予定地、南側の万博会場予定地共に、まだ建物は何もない。
ただ単にだだっ広い空間だ。
しかも、重機が動いていない週末だったことから、「寂寥」との表現がはまる光景だった。大阪の中心地からさほど離れていない場所との実感は持てなかった。
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汚水処理の現場も
2023年8月3日、テレビ東京系の経済情報番組「ワールドビジネスサテライト」(WBS)で、夢洲の万博会場の様子が放送された。
「建設現場の撮影が特別に許可された」として、万博への出展を予定しているパナソニックグループのパビリオン(展示館)の工事現場が登場した。「まだ2週間前に着工したばかり」で、基礎工事として鉄骨などを立てている段階だった。
夢洲全体の引きの映像になっても、まだまだ更地状態の場所が多かった。
僕が足を運んだ時は、さらに何もなかった。写真を撮りビデオカメラを回していると、万博会場予定地の所々に棒が刺さっているのに気がつく。周囲には赤い円錐形のカラーコーンを配置し、明らかに目立たせている。
藤永さんに尋ねると、「これは2区・3区の沈下測定の杭ですよ。西側の1区の管は、地中にたまるメタンガスなどのガスを放出する管です」。
夢洲の2区・3区は、建設残土や浚渫(しゅんせつ)土砂で埋め立てられ、1区は一般家庭や事業所から出るゴミの焼却灰やスス、下水汚泥などが投棄されている。そこから有機物が発酵しメタンガスや硫化水素・一酸化炭素などのガスが出るので、それを抜くための管だという。
実際2024年3月末、このメタンガスが原因とされる爆発事故が、万博会場で建設中のトイレ棟で起きた。けが人こそなかったが、夢洲の土地の安全性を問う声が改めてネットを中心に流れることとなった。
移動すると、IR予定地には水たまりがあった。たくさんの小さな野鳥が群れている。安全な場所に車を停め、歩いて海沿いに向かう。
そこでは廃棄物の埋め立てによって生じる汚水を処理していた。フローティングエアレーターと呼ばれる廃水浄化設備で、水を空気にさらし、「曝気処理」をする。その装置が「ブゥーブゥー」という音を周囲に拡散していた。
この汚水処理場から細い歩道を隔てた反対側では、排水管の下で泡立つ水を目撃した。薬品処理によって生じる泡のようだ。歩道には、緑色のドラム缶が10個以上散乱していた。缶に書かれた名称は「流出油処理剤」で、天ぷら油などを固める薬剤だ。きっと、業務用廃油が持ち込まれていたのだろう。