風間俊介が主演する舞台「モンスター」が11月30日から上演される。本作は、英国を代表する劇作家のひとり、ダンカン・マクミランがタブーに挑んだ衝撃作で、日本初演。家族から十分な愛情を受けられず社会に問題児として扱われる生徒と、かつての華やかな職場から逃れ、自分自身も深い問題を抱える新人教師との対峙(たいじ)を軸に、大人の子育てと責任、未成年の反社会的な行動といった教育・家族関係を鋭く表現した物語だ。風間に本作への意気込みや役作りについてなどを聞いた。
-最初に本作のお話を聞いたときの印象を教えてください。
まずはこの「モンスター」というタイトルに引かれました。「モンスター」というタイトルの作品はこれまでもたくさんありましたが、作家さんやその作品ごとに、何をもってモンスターを描くのかが違い、とても個性があると思います。今回のお話では、分かりやすい脅威ではなく、どこか潜在的なモンスターが描かれるのではないかという期待をもってお話を受けさせていただきました。なので、初めて台本を読んだときは、僕が思い描いていたものであっていたのだなと感じました。自分たちの日常と表裏一体の怖さがそこにはあり、“モンスター”という言葉が他者ではなく自分に向かっているような、そんなすてきな作品だと思います。それと同時に、これは役者としてはとても高い山を登らなくてはいけないなと感じ、今、恐れおののいています(笑)。
-風間さんが演じる教師のトムという役柄については、どう捉えていますか。
一言で言ってしまえば、トムもまた“モンスター”だと思います。物語が始まったときは、トムのことをモンスターだと感じないと思いますが、トムは、狂気は全て人の中にあって、脅威は身近にあるということを問いかけるキャラクターになっていきます。物語的には、(問題児として扱われる生徒の)ダリルが俗にいう“モンスター”と呼ばれる存在ですが、この作品では全員が“モンスター”なのだと僕は感じていますし、そこが面白さでもあると思います。そう考えると、もしかしたら今、僕や皆さんの周りにいる人たちもモンスターなのかもしれない。一周回って狂気に寄り添えるのではないかと感じる作品だと思います。
-もし、風間さんがトムという立場で、ダリルと対峙するとしたら、どんな言葉をかけますか。
言葉ではないですが、(トムが持っている)ドライさとウェットのバランスを少しだけ変えて、ウェット寄りにします。カウンセラーや心理学を学んだ立場からみると、しっかりとした距離感と、ドライさを持ちながら対峙しないと彼からの信頼は得られないと考えるのだと思います。なので、その距離感は大事ですが、もし僕だったら、もう少しウェットとドライのバランスを変えるだろうなと思って読んでいました。
-誰にでも光と闇はあると思いますが、風間さんは自分の中の闇をどのように受け止めて、どう対処しているのですか。
僕は自分の黒いところも好きなんです。僕の役者としての系譜を振り返ってみると、若かりし頃はダークサイドを描いた役をたくさん演じ、30代になってからは、光が当たっているキャラクターを多く演じさせていただきました。どちらの役もやらせていただいたことで、良い人と呼ばれる役を演じるときに、この人の闇はどこにあるんだろうと探すようになったんです。逆にダークサイドを描いた役を演じるときは、この人の光はどこにあるんだろうと考えます。なので、僕自身も自分の中のダークサイドは大切にしてあげたいと思っています。どうしてもこうしてお話をさせていただくときや人前に立たせていただくときは、きちんとした発言をしようと思い、光が当たっている面をお見せしていると思いますが、色濃く闇を持っている人間なので、それを垣間見ていただけるのが演劇やドラマ、映画です。
-本作は、ディスコミュニケーションを描いた作品でもありますが、風間さんが人とコミュニケーションを取る上で大切にされているのはどのようなことですか。
「決めないこと」ですね。例えば、ここで「僕のコミュニケーションはこれです」と言ってしまったら、その時点で霧のように消えていってしまうように思います。僕は、人によってコミュニケーションの仕方を変えますし、「その時々で違う」というのが僕の矜持(きょうじ)です。「あの人は誰に対しても態度を変えない」というのが美徳とされている世の中ですが、僕はそれが分からなくて。人によって態度を変えないとコミュニケーションは成り立たないのではないかと思います。
-現場や稽古場では積極的に話しかけるタイプですか。
人と話すことはすごく好きなので、話しかけると思います。ただ、僕がたくさん話すのは最初のコミュニケーションのときで、仲良くなって安心すると、それほど多く話さないかもしれません。そんな自己分析をしています。
-劇中に登場するダリルは14歳の少年ですが、風間さんが14歳のときはどんな少年でしたか。
仕事を始めたくらいの年齢ですね。すごく斜に構えていました(笑)。どこか大人の社会を垣間見るのが好きな少年だったように思います。職員室もすごく好きでした。先生方も家に帰れば教師ではなくなるというのが面白いなと。僕の目の前では、教師という役柄を持っているけれども、きっとこの人も別の場所に行ったら全然違う顔を見せるんだろうなと、そんな目で先生のことを見てしまう少年でした。
-ダリルとは全く違った少年時代だったのですね。
どうなんでしょうか。言葉遊びになってしまいますが、“違う”ということではなく、“ある種同じである種違う”という言い方が正しいのかなと思います。
-最後に、この作品を見る人に、作品を通してどんなことを伝えたいですか。
お客さまが感じることは千差万別だと思いますが、「すごく小さな幸せを大事にしたい」という感想を持つ方がいらっしゃればいいなと思います。例えば、花がきれいだったとか。今、言いながら、僕自身もあまりそういうことを敏感に感じられていないと思いましたが、そうした小さな幸せをかき集めるしかないと思います。僕は最初にこの台本を読んで、このお芝居を見たらどんなことを感じるのか想像した時、「自分の中にモンスターがいるのは仕方ない。でも、それをモンスター化させるのか、ペット的な存在でいてくれるのかという分かれ道は、光が当たる要素を蓄えられるかどうかだと思う」と感じました。光と闇のバランスが崩れていかないようにするためにも、“光のストック”をしておきたいし、しないといけない。光は自分で意志を持ってストックしないとたまらないものなので、意識してためたい。僕はそうした感想を持ちましたが、皆さまにそう思っていただきたいということではないので、皆さまがどんな感想を持たれるのか楽しみにしています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「モンスター」は、12月18日~28日に都内・新国立劇場 小劇場ほか、大阪、水戸、福岡で上演。