森永卓郎(C)週刊実話Web

がんは幸せな病気だとしばしば言われる。

突然死することが少なく、病気が発覚してから命を落とすまでにタイムラグがあるため、身辺整理を進めることができるからだ。

私自身も、昨年11月に余命4カ月の宣告をされたが、幸いなことに今のところ何とか生き延びている。

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ただ、生死の危機を脱して小康状態を回復してからは、懸命に身辺整理を進めてきた。

その体験を『身辺整理』(興陽館)として上梓したので、エッセンスをご紹介したいと思う。

私が進めた身辺整理は、モノ、カネ、ヒトの順だった。最優先したのは、勤務する大学の研究室の断捨離だ。

それには理由があった。同僚の教授が突然亡くなり、その教授の奥さんが毎日大学に通って、苦労して研究室の片づけをしているのを見ていたからだ。

私は、まずゼミ生を研究室に招いて、欲しい書籍を全部持っていってもらった。

残った本や雑貨は、まとめて整理業者に処分を依頼したが、学生が本を引き取った後でも、廃棄量は2トントラックに山積みで、費用も10万円近くかかった。

次に行ったのが「カネ」の整理だ。10近くあった銀行口座を一本化するため片端から銀行を回って口座を解約したのだが、いまは支店窓口の予約を取ってから行かないと何時間も待たされる。

仕事との兼ね合いもあって結局、預金の一本化だけで3カ月以上の時間を費やした。

「ヒト」の整理は難航中

また、証券会社に預けていた株式や外貨預金などは7月11日にすべて売却した。幸いなことに、最も株価が高く、為替が円安のタイミングだったため、三千数百万円の大金が転がり込んできた。

いま私はがんの自由診療で月に100万円以上の医療費自己負担を抱えているのだが、このカネで、あと数年は治療を続けられることになった。

そして最後の身辺整理が「ヒト」、つまり人間関係の整理だ。ただ、これに関しては現状うまくいっているとは言えない。

がんが発覚して以降、人間関係がむしろ増えてしまっているからだ。20年以上会っていない元同僚から「一緒に飲もう」と誘われたり、あちこちの集まりに招待される。

一番多いのは、名医の紹介や体によい飲食料品や健康法などの治療に関するアドバイスだ。これまで寄せられた情報は、メールが来たものだけで2000件を超えている。

私は医者ではないので、どのアドバイスが正しいのか、正直言ってよく分からない。

ただ、はっきりしているのは、アドバイスをすべて守ったら、1日が300時間あっても足りないし、推奨された飲食料品をすべて摂取したら、即死するくらいの分量だということだ。

さらに、一番悩ましい人間関係は妻との繋がりだ。私は当初、もし命を落としてもすぐに立ち直れるように、妻に嫌われるような言動を繰り返してみた。

ただ、40年以上一緒にいる相手に、そうした演技は通用しなかった。

他人との人間関係は整理できても、身内の人間関係はなかなか整理できない。

それが、がんを患ったときの最大の問題点だと言えるのかもしれない。

「週刊実話」11月7・14日号より