400年前に錬金術師が作った世界初の高性能爆薬が紫色に爆発する理由が判明! / Credit:Jan Maurycy Uszko et al . Explosive Chrysopoeia . arXiv (2023)
400年に及ぶ宿題が解けました。
英国のブリストル大学によって行われた研究によって、400年前に錬金術師が作ったとされる世界初の高性能爆薬が、なぜ紫色の煙を発するのかが解明されました。
日本語では「雷金」と呼ばれる爆薬は、金をベースにアンモニアなどさまざまな物質を材料の混合物で構成されている極めて不安定で爆発しやすい物質であり、多くの錬金術師を爆発事故に巻き込んできた歴史を持っています。
古の錬金術師が残した謎を、現代科学はどのように解決したのでしょうか?
今回はまず最初に錬金術の歴史について軽くまとめ、次ページ以降で雷金の謎や研究成果について紹介していきたいと思います。
研究内容の詳細はプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されました。
目次
錬金術の歴史「古代から現代科学への飛躍」はいかにして起きたのか?人類初の高性能爆薬「雷金」は紫色の煙を発生させる煙の中にはナノサイズの金粒子が含まれている
錬金術の歴史「古代から現代科学への飛躍」はいかにして起きたのか?
錬金術はかつてオカルトと融合していました / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
錬金術は古代から中世にかけて、科学的知識がまだ十分に発達していなかった時代に、自然界の秘密を解明しようとする試みでした。
錬金術はその名の通り、主に卑金属から貴金属(特に金)を練り出すことを目指していました。
しかし他にも様々な物質や人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成することも含まれています。
たとえば老化や病気を克服し、永遠の若さや不死をもたらすとされる伝説の薬「エリクサー」やあらゆる病気を治すことができるとされる万能薬、人間の肉体と魂の錬成をはじめとした人工生命(ホムンクルス)の創造なども目的の1つとされていました。
錬金術の起源は、古代エジプトの神秘主義や古代ギリシアの哲学、特にアリストテレスによる四元素説にまで遡ります。
この時代の人々は、万物が火、空気、土、水の4つの基本要素から構成されていると考えていました。
そして中世のヨーロッパが停滞期に入るころ、イスラム世界へと知識が伝わり、そこで錬金術が大いに発展します。
しかしイスラム世界での錬金術の発展は現代的な化学に辿り着くことはありませんでした。
原因は賢者の石でした。
王侯貴族の大規模な支援にもかかわらず研究は失敗しました。 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
イスラム世界では錬金術が発展して現代的な「化学」へと進化する兆しがあったものの、やがて多くの錬金術師たちは自然の神秘を解き明かすよりも、鉛を金に変えたり、永遠の命をもたらしてくれる賢者の石探しに、ほとんどの労力を注ぎ込むようになってしまったのです。
この熱狂は、一部の錬金術師が不可解な実験や奇妙な儀式に没頭することにつながり、時には王侯貴族からの支援を受けながらも、多くは無意味な浪費に終わりました。
一方、その後にイスラム世界から錬金術を逆輸入した西洋世界では、大きな変化が起こりました。
イスラム世界の錬金術師が賢者の石探しに躍起になっている17世紀後半、ヨーロッパでは化学者のボイルが四元素説を否定、ラヴォアジェが著書で33の元素や「質量保存の法則」を発表するに至りました。
他にも錬金術師たちは塩酸、硝酸、カリ、炭酸ナトリウムを最初に製造し、ヒ素、アンチモン、ビスマスなどの化学元素を初めて特定しました。
そして17世紀末になると錬金術とオカルト部分の分離が明確になり、現代に続く「化学」が成立します。
王侯貴族の莫大な支援(選択と集中)を受けたイスラム世界の錬金術が失敗し、そこまでの介入がなかったヨーロッパ世界で錬金術が化学へ進化したという事実は、皮肉と言えるでしょう。
あるいは、技術的に立ち遅れていた西洋世界のほうが、錬金術をより新鮮な視点で受け入れることができたからかもしれません。
どちらにしても、このような長い錬金術の歴史を考えれば、人類初の高性能爆薬「雷金」を錬金術師が発明したとしても不思議はないでしょう。
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人類初の高性能爆薬「雷金」は紫色の煙を発生させる
熱された雷金が爆発して紫色の煙が立ち上る様子 / Credit:Recreating Old Alchemy Explosives
日本語で「雷金」と呼ばれる爆薬は、人類が最初に開発した高性能爆薬であり、1585年に錬金術師ゼバルト・シュヴァルツァーによってはじめて単離されたとされています。
シュヴァルツァーは、雷金を作るには「金のサンプルを王水に溶解し、飽和溶液に塩化アンモニウムを加え、鉛球を通して溶液を沈殿させ、酒石酸上で乾燥させる」と記しています。
王水は金を溶解させることが知られる溶液として知られており、ざっくりと言えば、金を溶かした溶液にさまざまな化合物を混ぜて乾燥させたものと言えます。
こうして作られた「雷金」は極めて高性能な爆薬であるだけでなく、ちょっとした刺激によっても暴発する、極めて不安定なものでした。
そのため雷金の製造を目指した多くの錬金術師が、実験中の爆発によって深刻な怪我を負うことになったと記録されています。
またもう1つ着目すべき点は、その爆発によって生じる煙が紫色をしていることにありました。
時代が進むと雷金が主に金が不安定なニトロ基と結合していることや、効率的な製造過程も明らかになりましたが、煙が紫色である理由については、詳しく解っていませんでした。
そこで今回、ブリストル大学の研究者たちは、400年に及ぶ謎を解明すべく調査をはじめました。