イルカに「電場」を感知する能力があると判明!その使い途とは? / Credit: Testing a bottlenosed dolphin’s electroreception | Science News(youtube, 2023)

世界に広く分布するバンドウイルカの新能力が明らかになったようです。

ドイツのロストック大学(University of Rostock)とニュルンベルク動物園(Nuremberg Zoo)の研究で、バンドウイルカには「電場」を感知する能力が備わっていることが判明しました。

この能力は、獲物が発する微弱な電気を検出したり、地球の磁場を感知してナビゲーションに役立てている可能性があるとのこと。

イルカはどの部位で電気を感じ取り、具体的にどのように使っているのでしょうか?

研究の詳細は、2023年11月30日付で科学雑誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。

目次

イルカに電気を感知する能力はある?イルカの「電気センサー」はどこにある?何のために電気を感じ取っているのか?

イルカに電気を感知する能力はある?

自然界にはデンキウナギやシビレエイのように、強烈な電気ショックを誘発できるポケモンみたいな生物がいます。

一方で、電気タイプではないヒトや他の生物たちも体を動かすことで常に微弱な電気を発しています。

こうした他の生物が発した微弱な電気を感知できる能力を「電気受容(Electroreception)」といいます。

電気受容はこれまでに魚類や両生類の一部で報告されており、哺乳類としてはカモノハシで確認されていました。

また約90種いるイルカの中では唯一、南アメリカの沿岸域にのみ生息する「ギアナイルカ(学名:Sotalia guianensis)」に同じ能力があることが2011年に判明しています。


イルカの中で唯一、電気受容が知られていた「ギアナイルカ」 / Credit: en.wikipedia

しかしながら、最もよく知られたイルカの一種であり、世界中の海に分布する「バンドウイルカ(学名:Tursiops truncatus)」では電気受容の能力が知られていませんでした。

それゆえ、この能力がイルカに広く普遍的に存在するものだとは、科学的にも一般的にも指摘されてこなかったのです。

そこで研究チームは今回、飼育下にある2頭のバンドウイルカ「ドナ(Donna)」と「ドリー(Dolly )」を対象に実験をすることにしました。

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イルカの「電気センサー」はどこにある?

ギアナイルカの研究で、彼らは口先に点在する毛穴(vibrissal cryptと呼ばれる)を使って、電気を感じ取っていることが分かっています。

イルカは一般に、生まれたときはこの毛穴からヒゲ(感覚毛)が生えているのですが、数週間のうちに抜け落ち、名残として毛穴だけが残されます。

これが電気受容のセンサーとなっているのです。


a:生まれたときに生えているヒゲ、b:大人になると毛穴だけが残る / Credit: Tim Hüttner et al., American Association for Anatomy(2021)

そこでチームは、ドナとドリーの毛穴も電気センサーとして働いているかどうかを検証しました。

実験ではまず、ドナとドリーに水中に設置した赤い的に鼻先をつけるよう訓練します。

その上部には電極がセットしてあり、ドナとドリーが赤い的に鼻をつけてジッとしている最中に、そこから電気刺激を発生させます。

ドナとドリーは電気を感知したら5秒以内にその場から離れるよう訓練されました。

逆に何の刺激も感じなければ、少なくとも12秒は同じ場所に留まるよう指示されています。


実験セットの実際の写真とイメージ図 / Credit: Tim Hüttner et al., Journal of Experimental Biology(2023)

その結果、ドナとドリーは水中で大型の魚や甲殻類から放たれるのと同じ500マイクロボルトの電場を感知できることが分かったのです。

チームはその後の数日で、電場の強度を徐々に下げていきました。

125マイクロボルトに落としても、ドナとドリーは90%の精度で電場を検出することができました。

さらに強度を落としていった結果、ドナは2.4マイクロボルト、ドリーは5.5マイクロボルトまでなら感知できることが判明しています。

研究者によると、これはカモノハシが水中で感知できる微弱な電場と同程度だという。

この結果からバンドウイルカにも高い電気受容の能力があることが支持されました。

では、彼らは何のために電気受容を活用しているのでしょうか?