韓国ロシアとは1996年11月の「国防協力協定」締結以降、長きにわたって友好関係にあり、ロシアによるウクライナ侵攻1年前の21年3月にも「国防協力に関する協定」を締結するなど協力関係を続けてきた。そんなこともあり、西側諸国がウクライナに対し「攻撃用兵器」を提供する中、韓国は人道支援として軍需物資を提供。155ミリ砲弾の輸出も、一度米国へワンクッション置いた形で西側への間接的な援助にとどまっていた。

 しかし、今回の北朝鮮軍兵士のロシア派兵により、いよいよ「防衛用兵器」提供、そして最終的には「攻撃用兵器」をウクライナに提供する可能性が強くなってきた。

 韓国「聯合ニュース」などの報道によれば10月28日、韓国情報機関「国家情報院」のメンバーらで構成された政府代表団が、ベルギーで北大西洋条約機構(NATO)側と協議。情報交換の中で、ロシアに派遣された北朝鮮の軍部隊が、露南部クルスク地域に展開していることを改めて確認したと伝えている。その際、国家情報院がNATO側に伝えた情報の中には、今回、北朝鮮が部隊の統括責任者として派遣した人物のプロフィールも含まれていたという。

「それが金正恩氏の側近で朝鮮人民軍総参謀部の副総参謀長、キム・ヨンボク氏という人物で、同氏のロシア入国はウクライナ軍筋も掴んでいたようなのですが、韓国側の情報で改めてそれが裏付けられた形になったようです」(外報部記者)

 韓国軍が把握している情報によれば、キム氏は17年に特殊作戦軍司令官に就任し、21年6月に副総参謀長に昇進。「暴風軍団」と呼ばれる特殊部隊の第11軍団のトップなどを歴任した経験が買われ、今回、北朝鮮部隊の統括責任者として派兵された可能性があるとみられている。

「キム氏がいつ、どのような方法でロシア入りしたかは不明ですが、少なくとも10月24日時点でロシアにいたことが確認されているようです。すでにウクライナ当局はロシア軍作成の北朝鮮兵幹部リストも入手。そこにはキム氏の名前が最上位にあったといいますから、おそらくは総括責任者とみて間違いない。ウクライナ当局によれば、ロシア入りする幹部は将軍3人を含め士官も約500人。兵士の数は推計約1万2000人という情報もあり、それが事実であれば、いつ本格的な戦闘が始まってもおかしくない状況であることは間違いないでしょう」(同)

 北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は28日、北朝鮮軍の派兵は重大な国連決議違反であるとして、北朝鮮とロシアに派兵を停止するよう求めたというが、むろんロシア側が素直に応じるはずもないだろう。さらに、派兵によりさらに露朝、両国の軍事協力が強化されることで、ウクライナでの戦争が長期化するだけでなく、インド太平洋地域と欧州・大西洋地域の両方への脅威が増し、朝鮮半島の平和も脅かされることになる。

「ルッテ氏によれば、ウクライナとの戦争で死傷した露軍兵士は60万人以上で、もはやロシアは単独では戦争を継続できないほど切羽詰まった状態に陥っているという。今回、北朝鮮軍が前線に派遣されれば、文字通り第三国の正規軍としては初の参戦。ロシア軍同様、兵員不足に苦しむウクライナとの兵力差が拡大する懸念は大きい。来年に向け、ウクライナでの戦闘が新しい局面を迎えることは間違いありませんね」(同)

 露軍とタッグを組むことで、おのずと実戦経験を積むことになる北朝鮮軍。一方、韓国尹錫悦大統領は24日、「殺傷兵器を(ウクライナに)直接提供しない原則がある。しかし、北朝鮮の活動次第で柔軟に検討する」としている。今後、さらに朝鮮半島やアジア、太平洋地域の軍事バランスが大きく変化する可能性もある。世界情勢にまた一つ、大きなうねりが起こりそうだ。

灯倫太郎

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