Jリーグが開幕して31年。華々しく活躍してサッカー史に名を刻んだ選手もいれば、人知れず引退して犯罪に走る者も…。詐欺や窃盗などの罪で起訴された元Jリーガーは法廷で何を語ったのか。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が事件の顛末をリポートする。


 東京地裁で今月、Jリーガーだった男性を被告人とする刑事裁判が行われました。

罪名:詐欺、住居侵入、窃盗
被告人:無職の男性(50代)

 起訴された事件は3つ。ひとつ目は、今年の5月に被告人が東京都葛飾区の焼肉店で、支払い能力がないのにウーロンハイ4杯等8点(1万32円分)を注文し、順次食事の提供を受けた件。2つ目は、今年の7月に被告人が住むアパートの隣室にベランダをつたって侵入し、女性用下着3枚(3000円相当)を盗んだ件。3つ目は、今年の7月に被告人が住むアパートの隣室に住む女性の肢体を見る目的でベランダに侵入した件。

 無銭飲食と下着泥棒とノゾキになります。罪状認否で被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後にプロのサッカー選手として活躍。引退後は塗装関連の仕事をして、犯行当時は無職だったという。まずは、今年5月の犯行当日。被告人は所持金もなくICカードにも数百円しか入ってないのを認識した上で、焼肉が食べたいと考えて被害店に入店。被告人は随時食べ物を注文して飲食し、代金を払わずに入口のドアを開けて階段を降りてこっそり店外へ。被告人がいないことに気付いた店長が店を出て、走って被告人を追跡。すぐに追いつき、「お客さんお金まだですよね? 警察呼びますよ」と問い詰めると被告人は「呼びたきゃ呼べ」と悪態をつき、そのまま取り押さえられたというのが流れです。

 そして、今年7月の犯行当日。隣室に住んでいる女性のことが気になっていた被告人は、被害女性が自転車に乗って外出したのを偶然目撃したという。するとベランダをつたって隣室のベランダに入り、カギが開いていたので部屋に入って女性用下着3枚を持ち帰ったという。その次の日、被告人は午前4時30分に再び隣室のベランダに侵入して、ガラス越しに被害女性の寝顔を見ていたところ、被害女性が目を覚まして叫び声を上げ、110番通報。逮捕されて下着泥棒も発覚したというのが事件の流れになります。

 どうやら被告人はJリーグ発足時に3年間プロサッカー選手として活躍していたようで、当時は女性にワーキャー騒がれていた人気者だっただろうに違う意味で悲鳴を上げられるとは。そして、焼肉店の店長にあっさり追いつかれているというのもグラウンドを走り回っていた現役時代からの時の流れを感じさせます。被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「あなたの職歴を見ると、Jリーグでプロのサッカー選手として活躍した後、山梨県で塗装の仕事をしていたと?」

被告人「そうです」

弁護人「塗装工を辞めて東京に来たのは何故ですか?」

被告人「んー、都会への憧れです」

 塗装業を何年間やっていたのかは明らかになりませんでしたが、アテもなく上京したようです。

弁護人「現在は背中の痛みと糖尿病が原因で働けないと?」

被告人「はい」

弁護人「こういう裁判に情状証人として親とかが出廷することもあるんですけど、今の住所も電話番号もわからないと。連絡取れなくなった理由は?」

被告人「特にないです」

 なんとなく疎遠になり、親と連絡が取れない状態だそうです。

弁護人「あなたには前科が1犯あって、前回は覚醒剤取締法違反だったようだけど、どれくらい拘束されました?」

被告人「1カ月です」

弁護人「今回は4カ月ですよ。懲りました?」

 被告人は「はい。猛省しています」と反省の言葉を述べていました。弁護人から下着泥棒に関する質問はゼロです。続いて、検察官から。

検察官「隣室の被害女性の下着姿が見たかったんですか?」

被告人「いや、それはなかったです」

検察官「他の女性、被害女性じゃなくてもいいんですか?」

被告人「はい」

検察官「じゃあ今までもやってんじゃない?」

被告人「いや、ありません」

検察官「じゃ、何故入ったんですか?」

被告人「暑くてムラムラしたからです」

 今年の猛暑は被告人を下着泥棒に変えてしまっていたようです。

検察官「他はないとして、被害女性宅に入ったのは2回だけですか?」

被告人「はい」

検察官「それは調書にも書いてますけど、好意を持ってたからですか?」

被告人「それはないです。近かったので」

 取り調べではタイプの女性と述べているようでしたが、あくまでも取り調べの担当者の作文のようです。

検察官「焼肉店への弁償はどうするつもりですか?」

被告人「します」

検察官「今日までしてないのは何故ですか?」

被告人「機会がなかったんですね」

 事件が5月で、この初公判が10月。時間はたっぷりあったはずなのにテキトーな受け答えです。最後は裁判官から。

裁判官「え~っと……調書を見るとね、35才でヘルニアになったと。今も?」

被告人「今も背中の痛みが酷いですね」

裁判官「焼肉屋では走って逃げてるけど、動けるんですか?」

被告人「それは…酒入ってたんで」

 アルコールの影響で背中の痛みを感じなくなって走ることができたみたいです。

裁判官「あなたの犯罪歴を見ると前科は1犯だけど、起訴されてない前歴があって3回くらい無銭飲食やってるのかな。その時だけ元気ってのも困るんですけどね。どういう状況になったら無銭飲食やるの?」

被告人「ん~…そうですね、う~ん、もう焼肉は食べません!」

 焼肉卒業宣言です。お金払えば食べてもいいと思うんですが、ベジタリアンにでもなる予定があったんでしょうか。

 この後、検察官が懲役2年6月を求刑して、閉廷でした。

 1週間後に判決の言い渡しが行われて、結論としては懲役2年6月執行猶予4年でした。判決理由としては、隣室に侵入し下着を盗み、覗き目的で侵入する卑劣な犯行。また、肉が食べたいという身勝手な犯行。前科は20年以上も前のものなので執行を猶予したということでした。そして最後に裁判官からこんな説諭が。

「今回は執行猶予が付いた判決なので、今すぐ刑務所に行く必要はありませんが、刑務所に片足が掛かっているんだと思ってね、生活して下さい」

 元サッカー選手にそんなアドバイスをするなんて…。


阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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