ロシア軍によるウクライナ東部ドネツク州での攻勢強化と、最大1万人規模での北朝鮮兵士派兵を受け、ウクライナ政府は10月29日、これまでに動員した105万人に加え、さらに16万人の国民を追加動員する方針を明らかにした。

 現地メディア「ウクラインスカ・プラウダ」によると、ウクライナ政府は今年4月、徴兵対象年齢の下限を27歳から25歳に引き下げ徴兵逃れの取り締まりを強化したものの、国民の反発を懸念することから追加動員実施には慎重な構えを見せてきた。しかし、今回の北朝鮮兵士大量投入を受け、さすがに背に腹は代えられないと、苦渋の追加動員に踏み切ったと考えられる。

「ただし一方で、ゼレンスキー大統領は国民の追加動員を発表する4日前の25日、ウクライナ軍の外国人部隊兵士の将校登用を可能にする修正動員法案に署名しています。現在、ウクライナ陸軍と国防省情報総局には外国人部隊が存在し、米国やカナダ、英国、豪州など55カ国の兵士が参加していますが、“将校”という待遇を与えることで、外国人義勇兵をさらに募っていきたい。そんな狙いがみてとれます」(ウクライナ・ウォッチャー)

 そんな中、とんでもないニュースが飛び込んできた。それが、28日付の「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」(香港)に掲載された「脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望」という驚くべき内容の記事だったのである。同紙の取材に答えた脱北者のアン・チャンイル(69歳)氏は、すでに「私たちは皆、退役軍人で、北朝鮮軍の文化と心理状態を誰よりもよく理解している」として、すでに200人近い脱北者がウクライナ義勇軍としての参加を申し出ており、別の脱北者グループも北朝鮮兵に投降を呼びかける許可をウクライナ政府に申請中だというのである。

「記事によれば、北朝鮮の男性はすべてに兵役義務があり、その期間は約10年。つまり、脱北者グループのメンバーは全員に数年の従軍経験があるため、心理戦の戦闘員としてだけでなく『拡声器による放送、ビラの配布、通訳など、必要であればどこへでも行く用意がある』と。参加が実現すれば正規軍と前線で対峙することも十分考えられ、同胞同士がロシア軍とウクライナ軍に分かれて戦いあう、という悲劇が起こる可能性も出てきたというわけです」(同)

 もちろん今回、北朝鮮の金正恩総書記が自国の兵士をロシアに派兵する狙いは外貨獲得もあるだろうが、最大の目的は北朝鮮軍のスキル向上と実戦経験であることは言うまでもない。この戦争で、北朝鮮軍は欧米製の兵器や戦術を実地体験でき、そうなれば北朝鮮がより好戦的な方向に舵を切っていくことは必至。結果、アジア太平洋地域の不安定化がさらに拡大し、アメリカと韓国、日本は今後、中国、ロシアに加え、大きな脅威となった北朝鮮と対峙していかなければならなくなる。

「つまり、今回の北朝鮮軍によるロシア参戦は、北朝鮮にとって大きな意味を持つ以上に、世界にとっては紛争拡大を招きかねない最大の危険要因になるということ。しかも、ロシア軍が1日約1000人のペースで兵士を失っていると伝えられる中、正恩氏としてはロシアのプーチン大統領に対して『大きな貸し』が作れる。これまでにも砲弾を供与して食糧援助などの見返りを得てきたわけですから、派兵で大量の死傷者が出れば、ロシアからさらに援助を引き出すはずです。つまり、正恩氏としてはロシアが勝つにせよウクライナが勝つにせよ、どちらに転んでもオイシイという面はある。ただ、脱北者がウクライナ軍側に流れることまで想定していたかどうかははなはだ疑問で、大量流出となれば大誤算、思惑は全て水の泡となる可能性もある」(同)

 北朝鮮兵士VS脱北兵による戦闘がどんな悲劇を招くのか。現時点では誰も予測することはできない。

灯倫太郎

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