「シングルマザーはヤクザと同じだから」社会復帰を目指し、起業した女性に待ち受けていた試練…子どもと生きていくと決めた母親の覚悟と幸せのモチベーションとは?

大丈夫じゃない

2006年7月にスタートした「株式会社アクションパワー」は、約10ヶ月でピンチを迎えた。

「お金がないのはずっと続いていましたが、ちょうどその頃、前年の所得に対する住民税が高かったことと、ハウスクリーニングの知識と技術を習得するために、東京まで勉強に行っていたため、研修費や旅費などの出費が嵩んだのがピンチの大きな要因です。

もちろん働いた分の報酬は入ってくるんですが、手元に残らないんですよね。まるで借金とりに追われているみたいな毎日でした」

やっとの思いで借りた「雅荘」の近隣住民からの嫌がらせが始まったのもこの頃だった。

上の階の住民からゴンゴン床を叩かれたり、唯一の表札だったテプラを剥がされたり、停めてあった車に傷をつけられたり、鍵穴を潰されたりするなどの嫌がらせが繰り返されるように。

ピンチを迎えた大津さんはこのとき、153㎝ほどの身長に対し、体重は40kgを切っていた。それでも大津さんは、「大丈夫、大丈夫」と口に出して働き続けていた。

「『大丈夫?』って聞かれても、反射的に『大丈夫、大丈夫』って答えてしまっていたのですが、最初に『大丈夫じゃない』って気づいてくれたのは、誰よりも娘を見てきた母でしたね……」

母親は、「これでご飯を食べなさい」と言って、封筒に入ったお金を手渡してくれた。

「そのときに母が助けてくれなかったら、今の私はないかも知れません……」

ピンチを乗り越えた大津さんの会社は、2年後には従業員10名を超えるまでに成長していた。

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壁を超えるモチベーション

多忙を極めた生活を送っていた大津さんだが、日曜日は仕事をしないというルールを作った。なぜなら、「息子と過ごす時間」と決めていたからだ。

中学2年生になったとき息子は「将来就きたい仕事のために、東京の高校に通いたい。海外留学も経験したい」と大津さんの前でプレゼンした。

大津さんは、驚きながらも2つ返事でOKし、そのための資金を稼ぐために、一層仕事に注力する。

そうして大津さんは、最初に立ち上げた、ハウスクリーニングや整理収納・生前整理や遺品整理、家事代行業務を行う「株式会社アクションパワー」のほかに、世界に向けて掃除や片づけの方法を伝える「一般社団法人 日本清掃収納協会」。

幸せなエンディングをむかえるための活動を行う「一般社団法人 生前整理普及協会」、女性起業家を応援する「株式会社アクションラボ」のほか、社会貢献事業として、シングルマザーやその子どもの支援活動を行うに至る。

「東京で生活したいとなると、学費はもちろん、生活費も家賃もかかるし、その上海外留学したいなんて言ってるので、稼がねばと……。息子のおかげで、とてつもないハングリーさを発揮させてくれましたね」

現在息子は夢を叶え、eスポーツの映像プロデューサーとして働いている。

「後から分かったんですが、私が仕事で夜いないこともあり、ヤンチャなグループと仲よくしていた時期があって……。このままでは自分がダメになるって思って、自分の生活をリセットしたいっていう気持ちもあって、東京に行こうと思ったみたいです」

そんな息子は3年前に結婚し、2023年には孫ができた。

「当時は息子が私のモチベーションでしたが、今はシングルマザーや生前整理で困っている人たちなど、自分ごとではないことにモチベーションが持てるようになりました。

相変わらず私は弱虫で泣き虫ですが、そんな私がここまでやってこられたのは、周囲の人の支えがあったからだと思いますし、本当に感謝しています。これからも世の中を、お掃除・お片づけ・生前整理で変えていけたらと思っています」

48歳のときに海外事業部を立ち上げた大津さんは、台湾や中国で清掃や片付けの研修を行なうなど、世界に活動の輪を広げているほか、53歳のときには自身が作詞作曲した歌『いつか』で歌手デビューを果たしている。

“再起動”した大津さんの躍進から目が離せない。

取材・文/旦木瑞穂