結婚や出産など、女性のライフステージの変化は“自分”以外のことで、大きく変わってしまうことがある。その度に新しい“生き方”に思い悩む人も多いだろう。そんな人生の壁を乗り越えた女性たちはいったい何を考えていたのか。夫の起業をサポートする傍ら、子育てとの両立にいっぱいいっぱいになってしまった大津たまみさん(54歳)の経験談を紹介する。(前後編の前編)
いじめられっ子から学級委員へ
愛知県在住の大津たまみさんは、車の部品を作る小さな工場を経営する父親と、そろばんの先生をしていた母親のもとに、3人姉弟の次女として生まれた。
「子どもの頃から2歳上の姉は美人で有名で、2歳下の弟はすごく頭がよかったので、私は“ちょっと残念な子”って感じでした。
身体が小さくて泣き虫だったので、小2のときに学校でいじめられていたのですが、担任の先生に、『なんでもいいから1番になるものをお前は持て。いじめる子が悪いのは当然だけど、お前も弱すぎる。もっと強くならないと、この後生きていけないよ』って言われたのが人生で最初の分岐点でした」
そのとき、たまたま姉と弟の“オマケ”としてスイミングスクールに通い始めた大津さんは、「誰よりも早く泳げるようになろう!」と一念発起。
結果、小5のときには、背泳ぎで地区大会に出場できるほどの実力をつけることができた。
「我が家は子どもの頃から、家族で車で出かけるとき、父が必ず“経営者の心得”みたいなテープをかけていて、その話の中で『人とは違う市場で戦いましょう』ということを繰り返し聞かされていました。
だから、人気があってライバルが多いクロールや平泳ぎではなく、背泳ぎを選んだのです」
水泳で活躍できるようになると、いじめも収まり、大津さん自身の自信にもつながった。
自分がいじめられていた経験から、いじめられている子をかばったり、不登校気味になった子を家まで迎えに行ったりするように。
いつしか学級委員に推薦されるようになっていた。
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出会って秒で交際
大津さんは背泳ぎの実力を活かし、高校卒業後はスイミングのインストラクターとして働き始めた。スイミングの仕事の隙間時間には、化粧品販売の仕事を入れた。
そして20歳のときのこと。友だちの紹介で、車の販売の仕事をしている同い年の男性と出会う。彼がのちの夫になる人だった。
「少し話してみて、『自分にないものを持ってる人だな』と思いました。物怖じしないところとか、強い精神力を持っているところとか、自分とは真逆で、とても魅力的に感じたんですよね」
お互いに惹かれ合っていた2人は、その日のうちに交際を決め、2〜3回会った後には、「離れている理由がないよね」と意気投合。同棲をスタートした。
彼が車の販売業から清掃会社に転職すると、大津さんは彼と過ごす時間を増やすため、スイミングのインストラクターの仕事の合間に、彼と同じ清掃会社でアルバイトをはじめた。
そして同棲開始から4年後の1995年、25歳で結婚。
彼と少しでも多くの時間を過ごしたいという想いではじめた清掃会社でのバイト経験が、のちに大津さんの人生を大きく変えることになるとは、このときは知る由もなかった。
結婚からしばらくして、大津さんは妊娠し、1997年、26歳のときに出産。元気な男の子だった。
夫はとても喜び、育児にも協力的。大津さんは大好きな夫と息子に恵まれ、幸せの真っ只中にいた。