人間はアンドロイドの目の動きにつられてしまう / Credit:佐藤 弥(理研)ら, Scientific Reports(2024)

アンドロイド(人型ロボット)の開発が進んでいる中、ある疑問が浮かびます。

私たち人間は、アンドロイドと心を通わすことができるのか、という疑問です。

映画やゲームではアンドロイドと人間が心を通わせていますが、現実ではどうでしょうか。

私たちは、アンドロイドをただの「物」としか認識できないのでしょうか。

それとも、アンドロイドを「心を持つ存在」として見ることができるのでしょうか。

理化学研究所に所属する佐藤 弥氏ら研究チームは、人がアンドロイドの目の動きにつられるかどうかを実験する中で、人がアンドロイドの心を読み取ろうとしていることを発見しました。

研究の詳細は、2024年10月4日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

人はアンドロイドの心を見ようとするのか人はアンドロイドの「心に注目」し、その「目の動き」につられてしまう

人はアンドロイドの心を見ようとするのか

人間同士のコミュニケーションにおいて、目は非常に重要な役割を果たします。

好きな人にじっと見つめられるとそれだけで嬉しくなります。

一方で、面接官にじっと見つめられると一層緊張するものです。

また私たちは、相手の視線を追跡して(注意シフトという)、相手が何を見ているのか、何に興味や関心を持っているのか把握しています。


人は相手の視線から「心」を読み取ろうとする / Credit:Canva

デートの最中、恋人が自分以外の異性に視線を移すなら、「自分よりもあの人の方が魅力的に感じるのか」などと考えてしまい、イライラしたり不安になったりするものです。

このような心情の変化は、相手の視線を追跡することが、単に視覚的な情報の変化を読み取っているだけではないことを示しています。

実際に過去のいくつかの研究でも、「他者の心を読み取って注意シフトが起こる」と報告されています。

では、このような心を読み取る注意シフトは、人間とアンドロイドでも生じるのでしょうか。

もし、私たちがアンドロイドを人間のように心のある存在として認識できるなら、「何に関心があるのだろう。何を見ているのだろう」とアンドロイドの心に注目し、「注意シフト」が発生することでしょう。


人間はアンドロイドの視線から「心」を読み取ろうとしているか / Credit:Canva

逆に、私たちがアンドロイドを単なる「物」としか認識できないなら、「心を読み取る注意シフト」は発生しないはずです。

その場合、アンドロイドの目の動きは、私たちにとって、「ただの動き」であり、心の伴わない「視覚情報の変化」に過ぎないことになります。

今回、佐藤氏ら研究チームは、この点を明らかにするため、視線を動かせるアンドロイド「Nikola」を用いた3つの心理実験を行うことにしました。

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人はアンドロイドの「心に注目」し、その「目の動き」につられてしまう

アンドロイド「Nikola」を用いた実験は、49人の参加者を対象に実施されました。

1つ目の実験では、アンドロイドの左右に点滅する光源を設置し、参加者に光源の点滅している向きを、ボタンを押して回答してもらいました。

その際、アンドロイドは点滅する光源に目を向けたり向けなかったりしました。


視線を動かせるアンドロイド「Nikola」 / Credit:佐藤 弥(理研)ら, Scientific Reports(2024)

その結果、アンドロイドの目が動く向きと、点滅する光源の向きが一致する場合、不一致な場合よりも、参加者はボタンを押すまでの反応時間が短くなりました。

このことは、参加者がアンドロイドの目の動きにつられて「注意シフト」を引き起こしたことを示しています。

しかしこれだけでは、参加者が単純な視覚的変化につられただけの可能性があります。

そこで2つ目の実験では、アンドロイドと光源の間に視線を遮る障壁を設置しました。

アンドロイドからは光源が見えない状態にしたわけです。

その結果、障壁が無い場合には参加者の反応時間が短くなるのに対し、障壁がある場合には、反応時間に有意な差が認められませんでした。

このことは、参加者が単にアンドロイドの目の動きにつられているのではなく、「Nikolaには何が見えているか。何を気にしているか」と、アンドロイドの心を読み取ろうとして、その視線につられた可能性が高いと考えられます。


2つ目と3つ目の実験ではアンドロイドの視界を遮る障壁を設置 / Credit:佐藤 弥(理研)ら, Scientific Reports(2024)

3つ目の実験では、2つ目の実験と同じ状況で、ターゲットを光源ではなく音源に変えました。

その結果、参加者は障壁のあるなしに関わらず、アンドロイドの目線につられて反応時間が短くなりました。

これは参加者が「Nikolaには音が聞こえていて、音が鳴った方に目線を送った」とアンドロイドの心を読み取ろうとし、その目線につられたことを示唆しています。

今回の一連の研究結果から明らかになったのは、「人間はアンドロイドの目の動きにつられてしまう」ということです。

しかもそれは、単に視覚的変化に反応していたわけではなく、人間を相手にした時と同じように、アンドロイドの目の動きから心の状態を読み取ろうとした上で生じていることを実証するものとなりました。

もちろん、アンドロイドに人間のような心はありません。

しかし、アンドロイドには心があるかのように、人間に感じさせることは可能だと分かります。

また、アンドロイドに心に似た機能を追加したりすることも可能でしょう。

そして私たち人間は、そんなアンドロイドを「ただの物」として見ることはなく、「心のある存在」として見る傾向があり、自身の行動に影響を及ぼします。

ちなみに、イタリア技術研究所(IIT)の2021年の研究では、人間はロボットでも見つめられると集中を乱されることが分かっています。

こうしたことからも、人は本質的に、アンドロイドを「ただのロボット」ではなく「心のある存在」として見てしまうことが分かりますね。

「人間とアンドロイドが心を通わす」といったSFは、実際にそこまでSFではないのかもしれません。

参考文献

人はアンドロイドの目の動きにつられてしまう -人はアンドロイドの「心」を読み取る-
https://www.riken.jp/press/2024/20241017_3/index.html

元論文

Mentalistic attention orienting triggered by android eyes
https://doi.org/10.1038/s41598-024-75063-3

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部