「肌色の部分をなくしたい!」と全身に刺青を入れ続けた熱海龍さん。鳶職の曽祖父、宮大工の祖父、極道の父への憧れから刺青を入れたものの、全身におよんだのは実はここ数年の話。全身刺青に走らせた偶然の出会いとは。平穏な日常生活は送れるのか。後編では、全身刺青男の正体をさらに詳細していく。(前後編の後編)
コロナ禍の1年、週3無遅刻無欠勤で刺青が全身におよんだ
──16歳の頃に観音様を入れてから、刺青は少しずつ増やしていったのでしょうか。
熱海龍さん(以下同) そのときは太鼓(腕の付け根から胸に丸くはみ出すデザイン)と七分袖、背中に入れてもらって、それで完成して終わってたんです。それが最近になってまた入れはじめて、コロナ自粛中、1年くらいでそれ以外の部分を全部掘ったんだよ。
──50年近く同じ姿でいらして、急にこうなったということですか!? また、どうして?
6年前くらいかなあ。地元で信号待ちをしているときに、腕に刺青がある中年の方と偶然一緒になったんです。その刺青は母校の名前だそうなんですが、実にきれいな活字体でね。それを見て「活字も入れてみたいな、俺って前腕が空いてるな、入れられるな〜」って気づいちゃったんですよね。
後日また信号待ちで一緒になって、声をかけて、その方がお世話になっている彫師の先生を紹介していただいたんですよ。「俺が彫ったスタジオに遊びに行ってみますか?」って誘ってくれて、行ったその日にちょうど先生の手があいていて。「今彫ってみますか?」って。それで入れてみたら先生の刺青が素晴らしいからどんどん入れたくなったんだよ。
──それで、あれよあれよと……。運命の出会いですね!
新型コロナウイルスで自粛が呼びかけられていた頃だから、先生も手が空いていたんです。それに甘えて、コロナ中、週3回無遅刻無欠勤でスタジオに行って(笑)。1年くらいで、「もう入れるところありませんよ」って。とにかく先生が上手だし、意志が通じるんですよね。ある意味、もう俺の主治医だね。
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日常生活は今まで通り
──年間150日以上通われたことになりますが、総額おいくらかかったのでしょうか?
先生にはその都度お支払いしているから、わからないんですよ。まあ、高級外車が買えたことは間違いないですね。
──さすがに顔に入れたときは周りに驚かれましたか?
いやあ、元からこういう人間だから(笑)。同棲中のパートナーも「好きにしなさい」って言ってくれています。刺青愛好家同士だと、どんぶり(首から下の全身)より上っていうのは入れられない人が多いけど、「龍ちゃんは極められていいよね」って言ってもらえますね。
怖がられても偏見を持たれても、自分が好きでやってることだから問題ないって堂々としているつもり。ただ意外とそんなに構えることもなくて、日常生活は今まで通り送れていますよ。
銭湯も常連でお邪魔しているところがあります。でも、たまにサウナでドリフのコントみたいになることがあって、おもしろいよ。俺が高木ブー役でね(笑)。大きく刺青の入った方がいらして、一般の方が縮こまってるんだけど、俺が入っていくと刺青の方も縮こまって隅に座り直すわけ。