好きなモノだけを買うことが真のサステイナブル。

児島さんがビギン編集長に就任してから20年。時代の主流がデジタルに取って代わり、人々のライフスタイルも激変した。いま児島さんは何を思うのか。

「編集に関してはこんなに大変で、こんなに面白い仕事はないと思っていました。だから30年以上続けられたのでしょう。僕はInstagramを見たことがありません。ビギン時代にブログを頼まれても断っていたのは、誰が読むかわからないものを書けないから。広く浅く書くとストレスでしかないんですよ。

『装苑』時代に服飾専門学校で講義をするようになり、学生に対して『新しいことに挑め!』と話している自分がこのままでいいのか? という疑問から、以前からお話をいただいていた、メガネブランド〈ゾフ〉を運営するインターメスティックさんにお世話になりましたが、編集を離れて思うのは、出版というメディアがあの頃と変らなすぎだと。

後輩から「継承してます!」と言われたりしますが、時代が変化しているのに発信する側が変わらないのはおかしい。スマホの普及で、何を着ていようと他者と繋がれるようになり、ファッションでアイデンティティを伝える必要性が減りましたが、同時に“他人からどう見られているか”という、生きるのに邪魔なカルチャーが大きなビジネスになった今こそ、やれることはある。

僕がいま雑誌をやるとしたら、目先の数字に惑わされず、無名だけど本質を伝える人やモノをまとめながら、薄っぺらい情報源に喧嘩を売ることで支持者を集めて大きなウネリを狙う。旗を振る人がいないだけで、振ればついてくるもんです。ダサかったロールアップや、誰も履いていなかったニューバランスがこうなったように(笑)。

今後のファッションに関して言えば、いろんな企業がサスティナブルを謳っていますが、最もサスティナブルなのは、自分が好きな服だけを買うことだと思うので、紙媒体にはそういった思いを伝えてほしいですね」

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様々な“完売伝説”を記録したあの頃の『Begin』誌面。

「新しいことは、人がやりたがらないことの中に必ず残っているから、面倒なことを楽しめる編集部にした」と語る児島さん。モノ選びのこだわりは当然、それに合わせて誌面には緩急をつけ、視覚的に印象に残すもの、現地取材など読み込ませるもの、さらには独自の提案に業界人を巻き込みその後の反響をイメージするなど、毎号異なる角度からの企画を盛り込んだという。「プレスリリースに載っていないことをどれだけ面白く書けるか」という個性的な原稿も人気だった。

児島さんが選ぶアメリカ的傑作10。

児島さんが作ったビギンの名物連載「BB10」になぞらえて、あの頃を思い出しながら“アメリカ的”視点で選出。「ボロボロになるまで履き込んだダナーライトやリーバイスなども候補にありましたが、当たり前のものより、当時を懐かしみつつの現役選手を軸に選びました。レアもの自慢ならほかにもありますが、使わない高級品より、使える傑作品を愛でる人が増えてほしいですね」

01…ありえない一着を読者のために♡/ビギン20周年記念別注のループウィラー

読者が好きなセレクトショップの名前を一着に入れ込みたい! とダメ元で各プレスに相談したところ実現した“読プレ”。部員にも一着ずつ配りました。テレビ番組『宇宙でイチバン逢いたい人』で和歌山のカネキチ(釣り網の工場)に行ったのが懐かしい。

02…最近はゴルフおじさんのイメージが強くなったので黒以外を引っ張り出しました/ブリーフィングのバッグ

黒はこの3倍持ってますが、昔のカーキを引っ張り出しました。最近ヘルメットバッグを見かけないので使ってみようかな。

03…誌面映えを考えて(笑)/エル・エル・ビーンのボート・アンド・トート

フリーポートの本店で読者と部員と自分用に購入。ワッペンは後付けです。現地で入れた刺繍がダサくてお気に入り(笑)

04…メイデンの加藤さんお元気ですか!/インディビジュアライズドシャツのBDシャツ

アメトラが売れない時代にこのシャツを仕入れていた加藤さんを応援してました! 写真のシャツは、今では考えられないほどのタイトフィット(懐)

05…パリのアナトミカで買った20年選手/オールデンのレースアップブーツ

実は“履かず嫌い”していました。パリのアナトミカでコイツ(カーフのアンライニングのモディファイドラスト)を見つけてから履き始めパリでは計7足購入。左は別注したコードバン。ハトメの緑青で、最近履いていないのがバレますね(笑)

06…この本は本家BB10でも一位でした/ラルフ・ローレン

到底アイテムを絞りきれないので写真集を! パリの新店がオープンした際、御大とお食事したのはよき思い出です。

07…実は576しか履いたことがありません/ニューバランスの576

UKメイドを理由に576から推しました。その思い出として、ボロでも捨てられない一足。

08…デニムの再構築は完全なるファッションでした/リーバイスレッド

限定店舗に超限定数。貸出してもらえない媒体が多かったのに、ビギンに必ず載っていたのは、日本に入る前から展開の相談に乗っていたから(笑)。欧州企画の再構築デニムは、その後に与えた影響も大きかったですね。

09…いまだヘビロテ/サニースポーツのシャンブレーシャツ

いま誰も着ていないアイテムは? から始まったGOODなシャンブレー探し。後にビギン編集長になる光木の紹介でした。

10…70年代アメリカの香りがしません?/パルサーのタイム・コンピューター

ポラロイドSX-70といい70年代のUSデザインはいいですね。コイツを紹介した後、LEDウォッチが大ブームに(なったと思ってます)

 

(出典/「2nd 2024年12月号 Vol.209」)