ジェーン・スーの人生観「自分が粗末に扱われたと受け取る人には、自尊心が削られてきた過去がある」無意識下の思い込みが与える影響

人生の大事な場面で何かを選択するとき、「どうせ私なんかダメだから」と弱気になってしまうことは無いだろうか?コラムニストのジェーン・スーは常に前向きに人生を捉えているという。

エッセイスト桜林直子との雑談をまとめた書籍『過去の握力 未来の浮力』より、一部抜粋・再構成し、弱気になってしまう人を救えるかもしれない対談を紹介する。

わたしの辞書には「欲しい」がなかった

桜林直子(以下、サク) スーさんは悪意を汲まない人だよね。

ジェーン・スー(以下、スー) そうそう、昔から。あとから「あれ?嫌味言われてた?」って気づくことがたしかに多い。遅いよね。性格的におめでたいところがある。

サク わたしは悪意センサーが敏感なんだよね。あの人ヤバいかもとか、避けた方がよさそうとか、早めにわかる。うまく使えばいいこともあるし、キャッチしすぎてるなと思うこともある。

スー あくまで結果論だけど、私の場合は悪意をキャッチできないからスルーできることも多いし、相手が私を恣意的に下に見ようとしたところで響かない。鈍感だなあ、と思われてることもあると思うよ。

回避能力が乏しいからヤバい人に突っ込んでっちゃうこともあるけど、それで大惨事が起きたこともないから、まぁいいかなと思ってる。

明確な悪意も世の中にはあるけれど、本質的には受け手がどう取るかの問題なんだと思ってて。だから、こっちにコンプレックスがあったり過敏になってると、悪意のないところに「悪い」って色をつけてしまうこともある。

「その言葉と態度、私に向けられた悪意として認定します」みたいな感じで感情を差し押さえてくる人がいるけど、いやいやそれ全然違うよって思うこともなくはないよね。

これが万人にとっての真実です、ではなくて、その人にとっての真実でしかないから。どこに光を当てるかで物事の見え方がずいぶん違う。

サク その人にはそう見えているっていうやつね、いわゆる認知の歪み。みんなそれぞれ歪みがあるからね。

スー 誰にでもあるよね。私も含めてオール認知歪み。飲み口が欠けたコップを出されてもまったく気にしないか、そういうコップを出された自分は疎まれてる、バカにされてると認識するタイプか。そういう違い。

自分が粗末に扱われたと繊細に受け取る人には、自尊心が削られてきた過去があることが多いと言うけれど。

(広告の後にも続きます)

「どうせダメだろうな」って諦める

サク そう、そのあたりのことを話したい。ちょっと子どもの頃の話をしていいかな。

わたしは「みんなはしていいけどあなたはダメ」と言われながら育ったのよ。どういうことかというと、たとえば、わたしは三姉妹の真ん中なんだけど、姉と妹は次の日学校が休みの土曜の夜は遅くまで起きていてよくて、みんなで深夜の番組を見ようっていう楽しみがあった。

だけどわたしだけはなぜか夜8時すぎには寝なきゃいけなかったの。

スー え? サクちゃんだけ? なぜ?

サク 親も、意地悪しようとか、わかりやすい悪意はなくて、この子はテンションが上がるとうるさいからって、そういう理由。たしかにわたしは調子に乗りやすかったから親の配慮もわからなくはない。

けど、そういう小さな扱いの違いが重なって、他の人はしていいけど「わたしはダメ」が家の中では当たり前になったのよ。そうすると、がっかりしないようにあらかじめ「どうせダメだろうな」って諦めるのがクセになるんだよね。

スー そりゃキツいよね。幼少期に「あなたはダメ」と言われて育つと、大人になって誰ももうダメなんて言ってないのに「これ欲しい」「あれしたい」が素直に言えない人になっちゃうってサクちゃん言ってたね。

サク そうなの。「わたしはダメ」っていう設定をとっくに外していいのに、大きくなってからも、諦め癖が残っちゃった。諦めるのが最善、なぜなら願っても無理だから。そういう思考がしっかり身についてしまったのよね。それを続けていたら、気づくと、手持ちのカードがあれもないこれもないって本当に何もなくなってた。

スー 手持ちのカードって?

サク あれをやってみたらどうだろう? こっちはどうかな?っていう可能性だよね。わたしの場合、そうした可能性が自分にあるということ自体、知らなくて。知らないっていうか、可能性があると信じられないっていう感じかな。実際に目に見えているものだけで「これしかないから仕方がない」みたいな感じでやってた。

スー 私は目の前に10個の扉があったら、開けたい扉からどんどん次々開けていくタイプ。サクちゃんは?

サク わたしは1個選んだら、他の扉は消滅するって思うタイプだった。だからその1個もなかなか選べなかった。

スー え? それってどういうこと?

サク そもそも自分に対して幾つもの扉が用意されていると思えなかったんだよね。

選ぶという感覚がない。しょうがないから「この扉」でいくしかない、みたいな、そういう感覚。