今回の実験では、1週間で1144kmの距離を走破 / Credit: Canva

短期的に体重を落とすことを目的とした場合、運動をしなくても、食事を極端に減らせば、その目標は達成できます。

ただ、極端な食事制限による減量は、脂肪ではなく筋肉が落ちてしまい、健康面やリバウンドリスクを考えると、デメリットが目立ちます。

最近、カナダ・ラヴァル大学(Université Laval)のナタリー・アルメラス教授らの研究グループは、中年男性たちを対象として、1週間で1144kmの距離を自転車で走破してもらうという、ユニークな実験を行いました。

この際、研究チームは、体重がなるべく落ちないことを目的として、ビュッフェを提供するなど十分な食事を与え、運動で消費したカロリーをなるべく補えるように配慮しました。

その結果、1144kmもの距離を走破しても、体重は1kg弱しか減りませんでしたが、体脂肪や腹囲(ウエスト)、内臓脂肪が大幅に落ちました。

研究チームは、現代社会では高度に加工された高カロリー食品にあふれ、カロリー制限が難しいことを指摘した上で、今回の結果を次のように解釈しています。

「多くの人にとって、今回の運動プログラムをそのまま実施することは現実的ではないが、人間はできるだけ少なく食べるのではなく、活発に動くように設計されていることを示している」

本記事では、「たくさん食べて、たくさん運動する」効果に迫っていきます。

今回の研究成果は、『American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism』に2024年9月3日付けで公開されています。

目次

「たくさん食べて、たくさん運動する」実験たくさん食べてもたくさん動くと健康的に痩せる

「たくさん食べて、たくさん運動する」実験

今回、研究グループは、過去に行われた研究データなどをもとに、短期間の極端な運動プログラムと食事の提供によって体内のエネルギー代謝に著しい刺激を与えることで、体重減少が起きなくても、内臓脂肪が大幅に減少すると考え、その仮説を確かめるための実験を実施しました。

なお、体内のエネルギー代謝に著しい刺激を与えるとは、簡単に言うと、カロリーを沢山とって、沢山消費することです。

実験では、日頃からサイクリングを楽しむ中年男性11名を分析対象として、セントローレンス川(カナダ東部を東北に流れる河川)の南岸にある104kmのコースを7日連続、1日1~2周してもらっています。

この際、事前に専門的な代謝テストを実施したり、期間中を通して心拍数測定や食事記録を行ったりすることで、摂取エネルギーと消費エネルギーを計測しました。

食事は、朝食と昼食がビュッフェ形式で提供された上、参加者たちは夕食と間食用に大きなお弁当箱に入れて食事を持ち帰ることができ、自宅では他の食品を食べることも許されました。


参加者には十分なカロリーがとれるようにビュッフェ形式の食事が提供された(イメージ) / Credit: Canva

こういった実験の前後に、身体計測や血液検査などを詳細に行うことで、「たくさん食べて、たくさん運動する」効果が検証されました。 果たしてどんな結果になったのでしょうか?

(広告の後にも続きます)

たくさん食べてもたくさん動くと健康的に痩せる

早速結果を見ていきます。

まずは、7日間のサイクリング期間中における摂取カロリーと消費カロリーの差分、すなわちエネルギーバランスを詳しく確認してみます。

コースを1周走った日は、摂取カロリーと消費カロリーが見事に釣り合っていましたが、2周走った日には消費カロリーの方が多いという結果が得られました。

このことは、1日2周した日では、運動量が非常に多く、消費したカロリーを食事で十分に賄うことができなかったことを示しています。


左:平均の摂取カロリー(Intake)と消費カロリー(Expenditure)右:毎日のエネルギーバランス / Credit: Chartrand et al. (2024) American journal of physiology. Endocrinology and metabolism, CC BY 4.0

具体的には、2周走った日には、成人男性が1日に摂取するカロリーの目安である2500kcalを大きく上回る5000kcal以上を摂取したにもかかわらず、約7000kcalも消費していたことがわかりました。

そして、気になる体重の変化ですが、たくさん食べた影響もあってか、体重は平均で0.8kgしか減少しませんでした。

それでも、ウエストサイズは3.2cm、体脂肪は1.5kg、さらには内臓脂肪の体積が14.6%も減少したという興味深い結果が得られました。


たくさん食べて、たくさん動いたら内臓脂肪が1週間で大幅に減少 / Credit: 写真AC

特に、磁気共鳴画像法(MRI)という高度な測定技術を用いて評価された内臓脂肪の14.6%減少という結果は注目に値し、アルメラス教授らも、「短期間に大量の持久運動で消費したエネルギーを補うために摂取カロリーを大量に増やしても、内臓脂肪が大きく減少することがわかった」とまとめています。

さらに、筋肉などで構成される除脂肪量が0.8kg増加したことは、運動の効果を実感させるものです。

この結果は、しっかり食べさえすれば、極端な有酸素運動をしても、筋肉量が減らないということを示すデータでもあります。

血中脂質や血圧などの健康指標にも明らかな改善が認められ、総じて、今回の結果は、7日間の実験を通じて、対象者たちがより健康的な体を手に入れたことを示しています。

もちろん、これほど極端に運動することは難しいかもしれませんが、日常生活において運動をしっかり取り入れれば、食べても、健康的な体を手に入れることが出来ます。

運動不足の影響が問題視される現代社会です。食事を制限し過ぎるのではなく、しっかり食べて体を動かすことで健康的な体を手に入れてみませんか?

参考文献

A week of intense cycling may burn abdominal fat without major weight loss, study finds
https://www.news-medical.net/news/20240923/A-week-of-intense-cycling-may-burn-abdominal-fat-without-major-weight-loss-study-finds.aspx

元論文

Effects of 1,144 km of road cycling performed in 7 days: a cardiometabolic imaging study
https://doi.org/10.1152/ajpendo.00098.2024

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部