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「恐怖」は私たちが感じる最も強烈なネガティブ感情の一つです。

ところが世の中には、ホラー映画を観たり、ホラーゲームをしたり、怪談ユーチューブをラジオ感覚で聴いたり、お化け屋敷に行ったり絶叫マシーンに乗ったりと、好んで恐怖体験を求める人がたくさんいます。

わざわざ恐怖を求めてしまう人間の心理とは一体何なのでしょうか?

米ペンシルベニア州立大学(Penn State)の心理学者で、スリラー小説の作家でもあるサラ・コラット(Sarah Kollat)氏は「コントロールされた恐怖体験を味わうことには、人間の生存にとって多くの利点がある」と指摘します。

では、恐怖体験を楽しむことで得られるメリットを3つに分けて見てみましょう。

目次

その1:恐怖体験で「メンタルが安定」する!その2:恐怖体験で仲間との「絆」が深まる!その3:実際の恐怖体験への「耐性」が強まる!

その1:恐怖体験で「メンタルが安定」する!

多くの人々が日常的に求める恐怖体験をコラット氏は「コントロールされた恐怖体験(Controlled fear experiences )」と表現します。

これは適度な恐怖感情を味わう上でとても重要です。

例えば、急に殺人犯に襲われたり、幽霊を見てしまったりといった出来事は、自分ではコントロールできない恐怖体験であり、本当に命を失ったり、精神が不安定になるリスクがあります。

一方、ホラーゲームをしたり、怪談ユーチューブを聴く行為では、実際に殺人鬼に襲われたり、幽霊に遭遇することはありません。

つまり安全圏にいながら味わえる恐怖体験であり、自分に合った適度な怖さを選べたり、あまりに怖くなったらいつでも辞めることができます。

これが「コントロールされた恐怖体験」の意味であり、ケガや命を失うリスクをなくしながら、プラスの健康作用が得られる行動となるのです。

では、恐怖体験で得られるプラスの作用とは何でしょうか?


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具体的には、コントロールされた恐怖体験をすると生理的な高揚感が生じます。

コラット氏によると、私たちの脳は「脅威にさらされている」と感じるとアドレナリンが急増して、進化的に重要な役割を持つ「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」が引き起こされるのです。

闘争・逃走反応は、危機的状況に陥ったときに戦うか逃げるかを選択する反応であり、恐怖体験を生き延びる上でヒトを含む多くの動物に備わったと考えられています。

まず恐怖に直面することで心拍数や呼吸が速まり、脳内でアドレナリンが放出されて、瞬時に集中力が高まります。

そして状況に応じて、例えば、襲ってきた暴漢の体格を見て、「この相手なら戦って制圧できるな」とか「これは逃げた方が身のためだな」といった適切な判断を下します。

こうして危機を乗り越えた後には脳内で神経伝達物質のドーパミンが放出され、精神的な「安堵感」や「達成感」が生じ、自己肯定感の向上や自己の成長につながったり、心理的なレジリエンス(回復力)が高まるのです。

コントロールされた恐怖体験は、こうした一連のポジティブな反応をケガや命を失うリスクなしに得られるのです。

米ピッツバーグ大学の先行研究では、コントロールされた恐怖体験として、お化け屋敷を体験した被験者は、実験前に比べてストレス刺激に対する神経反応が低下しており、心理的により安定して、不安を抱きにくくなっていることが判明しました(NIH, 2018)。

これはホラー映画を観たり、怪談を聴くことが、自己肯定感の向上やメンタルヘルスの改善につながることを意味しています。

確かにホラーゲームをクリアした後は「よし、俺は恐怖に打ち勝ったぞ!」と何か自分が少し強くなったように感じますよね。

さらにコントロールされた恐怖体験には個人的なメリットだけでなく、集団的・社会的なメリットもあります。

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その2:恐怖体験で仲間との「絆」が深まる!

私たち人間の根本には、人と人とのつながりを求めて、互いに助け合うことのできる集団や社会を形成しようとする性質が強く根付いています。

ヒトは弱肉強食の自然界においては肉体的に強い存在ではありません。一人で野生の中に放り出されて生き残るのは至難の業でしょう。

しかしヒトは古来、仲間と協力し、大きな社会集団を築くことで、地球上でここまで支配的な種となり得たのです。

こうした仲間同士の絆を深めるのに一役買ったのが「恐怖」なのだとコラット氏は指摘します。

その証拠にこれまでの心理研究で、火災や事故を一緒に生き延びた集団、自然災害を乗り越えた生存者たち、戦闘に参加した軍人のグループでは、お互いの心理的な絆が深まり、仲間意識が向上することが示されているのです。


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このように恐怖体験を共有することで同胞意識が高まる心理反応の一つを「テンド・アンド・ビフレンド(Tend and befriend)」といいます。

例えば、ある集団が同じ脅威に直面すると、赤ちゃんや子供など弱い存在を守ろうとする反応(=Tend)が起こり、さらに危機を乗り越えるために仲間同士で団結する反応(=Befriend)が促されるのです。

この心理反応は男性でも見られますが、特に自分の子供を守ろうとする女性において強く起こる反応で、愛情ホルモンとして知られる「オキシトシン」の分泌によって調節されることがわかっています。

これらを踏まえると、一緒にお化け屋敷を乗り越えた友達同士は社会的なつながりが強化されると考えられます。

そして最後に、コントロールされた恐怖体験で培われた心の強さは、実際の恐怖体験への耐性を高めることにもつながるのです。