【F1分析】1周で10秒も速かった角田裕毅、RB”ウエット投入”絶好の判断。首位も射程圏だったのにSCで夢潰える

 RBの角田裕毅は、F1サンパウロGPの決勝レースを7位で終えた。角田もそしてチームも、ウエットタイヤに交換した直後にセーフティカーが出動したこと、そしてその後赤旗が出たことで、さらに上位を狙うチャンスが失われたと語っている。角田も「首位に立てる可能性もあった」と悔しさを滲ませた。

 角田が言うように、首位に立てる可能性は本当にあったのだろうか? 詳細を見てみよう。

 F1サンパウロGPは雨に見舞われ、荒れたレースとなった。角田は予選で3番グリッドを獲得。決勝がスタートしてからも、そのポジションを守っていた。

 しかし徐々に前を行くジョージ・ラッセル(メルセデス)やランド・ノリス(マクラーレン)に引き離され、エステバン・オコン(アルピーヌ)からプレッシャーをかけられた。スタートで履いたインターミディエイトタイヤが限界を迎えつつあることが見てとれた。

 そしてオコンにオーバーテイクを許した直後、ハースのニコ・ヒュルケンベルグがコースオフしたことでバーチャル・セーフティカー(VSC)が宣言された。このタイミングでラッセルとノリスがピットイン。角田もピットに飛び込んだ。28周目を走り切ったところだった。

 しかしここで判断が分かれた。ラッセルとノリスはインターミディエイトを履いた一方で、角田はウエットタイヤを選んだのだ。この3台がピットストップしていた際にVSCは解除。レース再開となったが、角田の戦略がドンピシャリだった。

■圧倒的に速かったウエットタイヤ装着の角田

 この表は、当時の上位6台のセクタータイムを書き出したものだ。

 コースに復帰した直後のセクター1で、角田は早くもラッセルやノリスよりも1.5秒ほど速く走った。そしてセクター2では約3.5秒、セクター3でも2〜2.5秒、続く30周目のセクター1では4〜5秒も速く走ってみせたのだ。つまり、1周と1/3でラッセルとの差を実に11秒も縮めたのだ。ウエットタイヤの優位性は明らかだった。

■角田、急速に追い上げる……しかし

 当時の上位勢の差の推移も、グラフで見てみよう。VSCが宣言された時、角田は首位ラッセルから14秒の遅れだった。しかし上位2台と角田がピットストップをした後、角田はステイアウトしたオコンから28.249秒後方でコースに復帰した。

 このオコンとの差はセクター2を通過したところで25.254秒となり、セクター2では22.367秒、翌30周目のセクター1で18.174秒まで一気に縮まった。わずか1周で10秒を縮めたわけだ。つまりあと2周で追いつくという計算だ。追いつき、オーバーテイクした後は、1周につき10秒差を開いていったはずである。

 そう考えると、あと4周もあればタイヤ交換をしても首位で戻れるだけのセーフティリードを築くことができたはず……つまりコース上の水の量が減り、ふたたびインターミディエイト有利なコンディションとなったとしても、タイヤを履き替えて首位で戻れるだけのアドバンテージを築くことができたはずだ。つまり、優勝の2文字も決して夢ではなかった。

 しかし、雨が強すぎるとしてセーフティカーが出動。その後コラピントのクラッシュにより赤旗中断となったことで、まだタイヤを替えていなかったアルピーヌの2台とフェルスタッペンに幸運が転がり込んだ。

 レースはどんなことでも起こりうる。今回のように荒れたコンディションであればなおさらだ。しかし今回のレースでRBが採ったウエットタイヤを履くという判断は、まさに完璧な選択だったと言えるだろう。ただ、運が向かなかっただけ……。

 それを考えれば、角田やチームの首脳陣が悔しがるのは、当然と言えば当然だろう。

 今季はあと3戦。今回以上の手に汗握る走りを、角田にはまた見せてほしい。