アンスロボットの行動特性、修復機能について

この研究では、アンスロボットの形や動きについて調べています。

研究者たちは、350個のアンスロボットの3次元データを集め、その形や繊毛の配置について詳しく分析しました。

繊毛の配置としては、タイプ1(小さく形が滑らかで、球形に近い繊毛の分布)、タイプ2(形が不規則、繊毛が多くて全体的に均一に分布)、タイプ3(繊毛が特定の場所に集中して偏った分布)があり、全ての種類の形状についてはあまり変わらないことが分かっています。

アンスロボットの活動については、「動くもの」の中から「直線的に動くもの」と「円形に動くもの」各々をランダムに選び、各アンスロボットの左右対称性を比較しました。

結果としては、直線的に動くアンスロボット(その85%がタイプ2)は高い左右対称性を持ち、円形に動くアンスロボット(その88%がタイプ3)は左右対称性が低いことが確認されました。

後者は、タイプ3の形状から、繊毛の回転運動に偏りが生じて活動時に左右非対称性をもたらす可能性を示しています。

また、ヒトの神経細胞から作られた細胞層に幅400〜1,000ミクロンの傷を付け、その上をアンスロボットがどのように動くかを観察しました。

その結果、円運動をし、かつ動きが速いロボットの方が、直線的に動くロボットよりも傷の中でユニークな動きをし、傷全体を効果的に覆うことが分かりました。

この結果を踏まえ、アンスロボットが周囲の細胞にどのような影響を与えるのかを確認してみることにしました。

自然界では、個体が群れとして集合的に行動することで利益を生み出す「群知能」といった現象があります。

これに着想を得て、複数のアンスロボットが自然に集まって融合し、より大きな構造を形成する「スーパーロボット」を作ることにしました。

特別な型や機器を使わず、単に小さな皿の中に複数のアンスロボットを入れることで自発的に集まるようにしました。

これは、アリが体を繋げて橋を作り、広い隙間を渡る行動に似ています。

試験では、このスーパーロボットを傷ついた神経細胞層の隙間に配置し、彼らが左右の傷をまたいで「橋」のようにつなげて、傷ついた部分が修復されるかどうかを確認しました。

図Aは、スーパーロボットを配置した当日の様子ですが、上から、0日目、1日目、2日目で「橋」がつながった状態(黒っぽい部分)を示しています。

拡大した図Bでは、驚くべきことにスーパーロボットを傷の中に置いてから72時間以内に、元の組織の大幅な再生(すなわち、隙間を閉じること)が観察されました。

すなわち、「スーパーロボットの橋」のすぐ下に、傷の両側(紫色)をつなぐように「縫い目」(緑色)が形成されたのです。

但し、この隙間を閉じる現象は、スーパーロボットを配置した箇所でのみで確認され、そうでない箇所では長い傷全体を覆うような修復は見られませんでした(図C) 。


傷ついた神経細胞層を修復するスーパーロボットの驚くべき成果 / Credit : Gizem Gumuskaya et al., Advanced Science(2023)

スーパーロボットが修復した傷部分の組織の密度については、元の回復状態に近いことを示しており、周囲の傷の部分とは明らかに異なっていました。

このことから、スーパーロボットが自律的に活動し、周囲の組織に対して修復や再生の能力を持っていることが明らかとなりました。

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今後の展望

結果として、研究チームは前駆細胞が自己組織化し、自律的に運動する能力を持つアンスロボットの開発に成功しました。

これらのアンスロボットは、自己組織化のプロセスを経て、収縮性のある筋肉組織を形成し、収縮と弛緩を繰り返すことで自発的な運動を示しました。

特に驚くべきことは、外部からの刺激なしに、細胞が独自の力で運動を開始した点です。これは、細胞間の信号伝達が重要な役割を果たしていることを示しています。

研究者らは、アンスロボットが動脈硬化症患者の動脈内に蓄積した血栓の塊の除去や、呼吸系疾患の患者の気道からの過剰な粘液の除去、薬物の局所運搬などに利用できると考えているそうです。

また、この信号伝達のメカニズムを解明することで、今後さらに高度なバイオロボットの設計や、特定の機能を持たせることが可能になると考えています。

このように自己組織化し、運動するバイオロボットは、将来的に様々な分野での応用が期待されています。

この研究は非常に興味深い結果を示しましたが、まだ幾つかの課題も残されています。

まず、バイオロボットの持続性や長期的な機能維持については今後も継続的な確認を行い、実際の医療に応用する際には免疫反応や炎症を引き起こさないようにする工夫も必要です。

それでも、自ら動くバイオロボットが実現したということは、医療の未来にとって大きな希望です。

今後バイオロボットはどんな進化をとげるのか、目が離せません。

参考文献

Scientists build tiny biological robots from human cells
https://www.eurekalert.org/news-releases/1008859
ナノマシンがひらく新たな医療、早期発見、治療で健康を当たり前に(JSTnews June 2021)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstnews/2021/6/2021_3/_pdf/-char/ja

元論文

Motile Living Biobots Self-Construct from Adult Human Somatic Progenitor Seed Cells
https://doi.org/10.1002/advs.202303575

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。