「出所メシ」とは、服役していた元受刑者が刑務所を出所した後に食べる食事のことをいう。ここ数年、YouTubeチャンネルやネットのオンライン記事などで取り上げられることが多くなったが、その実態をつかむことは難しい。
思い出の出所メシは「ロールケーキ」
誰がいつ、どこの刑務所を出所するのか、誰が迎えに来るのか。それを知るのは親族や友人、ヤクザなら所属する組ぐらいだ。
カタギであれば出所間近の受刑者を親族や友人から紹介してもらい、出所前にコンタクトを取っておいて、出所してきたところで正式に取材許可をもらうこともできるだろう。
だが、ヤクザとなればそうはいかない。組の者が車で刑務所の前まで迎えに来て、そのまま組事務所に挨拶に向かうからだ。
出所したとき、最初に食べたいと思ったものは何か。これまで数回服役したという暴力団の古参幹部にそう尋ねた。答えは「ロールケーキ、とにかくロールケーキが食べたかった」。
かつ丼や天丼、ラーメンやステーキかと思ったが、想像とは違う予想外の答えに面食らった。
刑務所に入ると、とにかく甘いものが無性に食べたくなるという話はよく聞くが、この幹部もそうだった。
車で迎えに来た当時所属していた組の者に、「とにかくロールケーキみたいなものが食べたかったので、途中でコンビニに寄ってもらった。これくらいのを買って丸かじりした」。
幹部が手で示したサイズは20センチ程度、コンビニやスーパーで昔から売られているなじみのロールケーキで、安くておいしいというから、きっとヤマザキのロールケーキだろう。
「丸かじりした最初の一口なんて、そりゃうまかった」と思い出して頬を緩めるが、「動くものに慣れてなくて。途中で車を停めてくれといって、全部吐いた。えらい目にあった」と幹部は話す。
刑務所での数年間は車に乗ることがなかったので、身体が揺られる感覚に車酔いしたのだ。
それでも「あのときのロールケーキはうまかった」としみじみと話すから、幹部にとって思い出に残る出所メシなのだろう。普通の食事は組事務所についてからで、親分が用意してくれた料理を食べたという。
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「今はレストランで出所祝いができない」
古参幹部が3度目に地方の刑務所を出所したときは、「前の組を辞めていたのでカタギだった」という。
迎えに来たのはヤクザ時代からの友人だ。刑務所から車で少し走ると、「○○高原という牧場があって、レストランもあったので、そこに入ってステーキを食べたな」という。
味はどうだったかと聞くと「うまかったと思う」。何度も服役していると「特に何が食べたいというのはなかったが、外で食べるものは何を食べてもおいしいよ。でも、そんなに食べられないな。やっぱり出所できて胸がいっぱいになるのかな」ということらしい。
事件を起こしたときは暴力団員だったという別の男性は「出た後、駅近くにある街の蕎麦屋に入って、ビールを飲んだ。あのビールのなんとうまかったこと」と話す。お酒が好きな者なら、まずはアルコールなのだ。
だがこれが組員になると、話が変わる。「ヤクザは迎えに来る人がいるので、自分で何が食べたいではない。刑務所から出てきたら、まずは事務所か親分の所に挨拶に向かう。出所したままの格好で挨拶には行けないので、『これを着てくれ』と洋服はその場で差入れされる。それに着替えて挨拶に行く。自宅が近くても立ち寄って着替えるだけ」と前出の幹部はいう。
関西で活動する某暴力団の三次団体の組長は、子分が出所する際に「何度も迎えに行ったことがある」と話す。
「子分に何を食べたいとか、言われたことはないな。刑務所の前まで迎えに行き、そのまま移動して、まずは親分の所に挨拶に行く。以前ならその後、料亭やレストランで出所を祝ったが、今は人数制限があるのでレストランには行けない」
組長のいう親分とは上部団体に当たる二次団体の組長だ。特定抗争指定暴力団に指定された組長の組織では、大阪市や神戸市、名古屋市などの警戒区域で「組員がおおむね5人以上集合すれば即逮捕」となるため、行動に気をつけている。
「馴染みの店に仕出し弁当を頼むか、百貨店などでちょっと高くてうまそうなお重みたいのを買ってきて食べるか」というが、ヤクザの関係者には飲食業を営んでいる者もいる。
「ある子分が出所してきたときは、舎弟がやっている店でみんなで鍋を囲んだ。仲間と一緒に気兼ねなく食べるものは何でもうまい」というが、場所はもちろん警戒区域の外だ。