判断をする時に情報が必ずしも多ければよいとは限らない / Credit: Canva

物事の判断をするときに、情報を多く持っている方が、良い判断ができるはずと考える人は多いでしょう。

しかしその集めた情報が意思決定の精度を下げるケースがあるようです。

米スティーブンス工科大学のミン・ジェン氏らは、新たに得た追加情報が判断の質を本当に上げるのかを調べました。

実験では、参加者に「2型糖尿病」の症状の改善に必要な行動について選択肢問題を出し、糖尿病改善についての追加情報を与える場合と与えない場合での正答率を比較しています。

結果、「2型糖尿病」に罹患したことがある人は、追加の情報が与えられた場合に、与えられない場合と比較して、問題の正答率を下がることが確認されました。

過去に経験がある事柄は、反射的に答えを導き出せるはずです。

しかしそこに追加の情報が入ってくることで「自分の判断」は正しいのかと疑念が生まれ、判断が狂うかもしれません。

研究の詳細は2020年2月13日付で心理学ジャーナル『Cognitive Research: Principles and Implications』に掲載されました。

目次

情報が多い方が良い判断ができるのか経験がある事柄の判断の追加情報は判断を鈍らせる

情報が多い方が良い判断ができるのか


情報が多い方が良い判断ができるのか / Credit: Canva

物事を判断する際に情報を集めるのは、意思決定の精度を上げるための基本中の基本です。

情報を集めることで、状況の把握や問題の理解を深め、潜在的なリスクの回避や視点の多様性を持ち、バイアスを避けることができます。

またより多くの情報を持つことで、自分の判断に対する自信が高まり、確信を持って実行することができるでしょう。

しかし近年の研究によると、必ずしも判断をする際に、追加情報がプラスに働かないことを報告しています。

それは米スティーブンス工科大学のミン・ジェン氏らの研究です。

彼らは、オンラインで集めた参加者1,718名に対し、以下の問題を出しました。

「ジェーンは大学に入学したばかりで、授業や課外活動で忙しいスケジュールに慣れようとしています。彼女は『freshman 15』(大学1年生が最初の1年間で15ポンド(約7キロ)体重が増える現象)について聞いたことがあり、それを避けたいと考えています。しかし、新しい友達を作ったり、宿題や勉強の時間を確保することも大切だと思っています。ジェーンが目標を達成するために、ベストな行動はどれですか?

A. 毎週末に30分の散歩に行く
B. 健康的な食事を維持する
C. 友達と遊ぶのを避ける
D. テレビをあまり見ないようにする」

また研究チームは、彼らを問題以外の情報を与えない人と文章で追加情報を与える人、体重管理に関する要因の図解を見る人に分けています。


実験で提示された文章と図解。 / Credit: Zheng et al., (2020).

さて追加情報の有無、追加情報が与えられた時の種類によって正答率は変わったのでしょうか。

結果、追加で情報を得た人よりも、追加で情報を得なかった人の正答率が高くなりました(問題の答えは「B. 健康的な食事を維持する」)。


経験がある事柄は追加情報がない方が選択問題の正答率が高い / Credit: Zheng et al., (2020).

この結果を受け、研究チームは「過去に経験がある事柄についての追加情報は意思決定の邪魔になり、精度を下げる」のではと考察しています。

減量は多くの人が経験している事柄ゆえに、追加情報が判断の精度を低下させた可能性があると言えるでしょう。

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経験がある事柄の判断の追加情報は判断を鈍らせる


経験がある事柄の判断の追加情報は判断を鈍らせる / Credit: Canva

研究チームは経験の有無をより明確にするために追加の実験を行っています。

彼らはオンラインで募集した参加者590名に対し、以下のような「2型糖尿病」に関する問題を出しました。

「ボブは最近2型糖尿病と診断されました。彼の体は十分なインスリンを生成できないため、食事後に血糖値が危険なほど高くなる可能性があります。ボブはインスリンを注射したくないと思っており、医師が『食事と運動、そして健康的な体重を維持することで糖尿病をコントロールできる』と言ったときは安心しました。

ボブは仕事でストレスの多い1週間を過ごしており、金曜日の夜に友人に会うのを楽しみにしています。彼らはいつもボブのお気に入りのファストフード店でハンバーガーを食べますが、今ではそれが大丈夫かどうか気になっています。ボブが糖尿病をコントロールし、インスリン注射を避けるためにできる最善のアドバイスは何ですか?

A. 外食する
B. ハンバーガーの代わりにグリルチキンサンドイッチを注文する
C. グリルチキンサラダを注文して、友達と一緒にサイクリングに行くよう提案する
D. いつも通りにする」

研究チームは、彼らを問題以外の情報を与えないグループと、炭水化物の摂取制限や運動が2型糖尿病に与える影響の図解を見るグループに分けています。

結果、過去に糖尿病になったことがある人は追加の情報がない場合に、問題の正答率が高くなりました。

一方で糖尿病患者を世話した経験がある人と、糖尿病に罹患したことがない人は、追加情報があったときのほうが正答率が高くなったのです。


糖尿病の経験がある人は追加情報が判断の邪魔になる。 / Credit: Zheng et al., (2020).

この結果は、もともと自分で色々糖尿病について調べていて詳しく知っていた人(過去に罹患経験のある人)は、追加情報を与えられると回答の精度が下がる可能性を示しています。

参考にする情報が増えた方が、考慮できる判断材料が多いはずなのに、なぜこのような現象が起きるのでしょうか。

この研究では、特に正答率を下げる原因となったものが「因果情報」だったと報告しています。

「因果情報」とは、ある結果がどのような要因から生じるのかについての情報です。たとえば「運動不足が体重増加につながる」といった情報がこれに該当します。

これは一見、判断材料として精度を上げるために役立つ情報に思えます。

しかし、もともと知識を持っている場合、この因果情報に、過去の自分の知識との矛盾する部分や異なる情報があると、自己の知識への確信が低下してしまうのです。

私たちには自分が過去に学んだ知識や経験を基にした判断のための認知モデル(メンタルモデル)というものがあります。

そこに追加の情報を得た場合、私たちはこのメンタルモデルに沿うよう、情報の更新を行います。

しかし、ここで自分のメンタルモデルと新しい情報に食い違いが生じてくると、自身の判断が正しいのかどうか疑心暗鬼になってしまうのです。

本来であれば、経験したことがある事柄は考える時間を要せず即時に判断ができます。

しかしそこに追加の情報が与えられることで、正しいにも関わらず、考えすぎで間違った別の選択肢を選ぶように、判断を誤る可能性が高くなるのです。

知識はどんどん拡張させ、更新していくことは正しい判断の精度を上げるために大切だと考える人は多いでしょう。

しかし、追加情報は諸刃の剣になってしまう場合があるようです。

読者の中にも、似たような商品が並ぶ通販サイトでどの商品を選ぶのが最適かネットで調べまくったことがある人は多いでしょう。

そのとき、これにしようと思った商品に否定的なレビューが出てきたりすると、じゃあやっぱり違うのにしよう、などとだんだん自分の判断への確信が低下してしまいがちです。

そして、悩んだ挙げ句、最終的に買った商品はあまり品質の良いものではなかったなんて経験があるのではないでしょうか?

情報の過多は逆に判断を誤らせる原因になるようです。

情報はほどほどに抑えて判断した方が、良い結果に結びつくのかもしれません。

元論文

How causal information affects decisions
https://doi.org/10.1186/s41235-020-0206-z

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。

編集者

ナゾロジー 編集部