株式会社ビーマップは南海電気鉄道株式会社(以下、南海電鉄)とタッグを組み、きっぷをQRコード化して無料化し簡易に提供することができるデジタルきっぷを用いた新サービスを展開。
9月にはドイツ・ベルリンで行われた国際鉄道技術専門見本市「イノトランス2024」にも出展。
今回、ビーマップ並びに南海電鉄の担当者の方に、本サービスの詳細や今後の展望など、詳しいお話を伺いました。
新たなまちおこしや集客に活用できる「デジタルきっぷ」
デジタルきっぷとは、南海電鉄とビーマップが共同開発した、乗客の利便性向上のための新サービス。
南海電鉄では、2021年4月より「QRコードを用いたデジタルきっぷ」や「Visaのタッチ決済」を導入することで、デジタル技術を活用した新たな乗車環境の整備に取り組んでいます。
このデジタルきっぷを活用し、交通事業者以外の第三者による発券を容易にした、下記の新たなサービスを提供。
自家用車を利用して商業施設で買い物をすると、駐車場料金の割引や無料化などの特典が受けられるサービスは、現在では当たり前に普及しています。しかし、電車で来場・来館する方にはこういったサービスを受けることができる仕組みはこれまでありませんでした。
デジタルきっぷは上述した例と同様、商業施設や公共施設、イベントなどの利用時に往路または復路(もしくはその両方)の鉄道・バスなど交通機関の運賃を割引、または無料とするサービスを簡単に提供可能なサービスとなっています。
これにより、利用者に対して施設と交通機関の双方の利用を促す動機付けや、実際の集客に繋げることができるもの。
現在は南海電鉄が既にデジタルきっぷを活用しているほか、国内の鉄道会社及び流通業などの企業と勉強会を実施しています。
目標は「いつか電車を気軽に無料で乗れる世界」
南海電鉄 事業戦略グループ イノベーション推進部長の中川和幸さんと、同事業部 課長補佐の東本真奈さんに、デジタルきっぷができるまでの経緯や詳細についてお話を伺いました。
左から中川さん、東本さん
「商業施設などでは、いくら以上買ったら駐車場料金を割引しますよ、というのが一般的です。その発想を合わせることにより、QRコードの乗車券をお客様にお渡しすることによって、移動を促せないだろうか、販促ツールあるいは集客ツールとしてお使いいただけないだろうかという風に考えたところが本サービスの原点なんです。」
と語る中川さん。
中川さんは、本サービスの提供は2パターン存在していると解説。
「にんじん式」は、目的地までの誘客が狙い。該当施設までのきっぷ利用がタダになるお得さをもって集客へ働きかける、外出前の方へのアプローチとなります。
一方「ごほうび式」は駐車場料金の無料化と同様、いくら以上購入で電車・バスなどの無料きっぷを提供する、外出中・外出後の方を対象としたアプローチに効果的な提供方法とのこと。
同社の東本さんは、
「私たち南海電鉄は、民間企業として初めて鉄道事業をスタートした会社です。そのような新しいことを始めるDNAを現在に活かしながら今後も取り組みを続けていきたいと思っています。デジタルきっぷを活用した施策にぜひご期待頂けたらと思います。」
とコメントしてくれました。
中川さんは、
「我々はお客様が増える。お客様はタダで交通機関が利用できる。商業施設様などは運賃を負担いただくことになりますが、その分お客様が増えたり、売り上げが上がる。デジタルきっぷで、この三方よしの仕組みを作れるのではないかと考えています。しかし、現在この三者を繋ぐ仕組みがなく、杉野社長と色々検討を重ねながらシステム構築を進めていただいているところです。」
と、デジタルきっぷの活用方法などについて言及。続けて将来の展望について、
「私たちは、たくさんの方が町に訪れ、賑わって欲しいと思っています。ショッピングセンターや百貨店に訪れた際に、エレベーターやエスカレーターは、当たり前に無料で乗れる移動手段です。こういった施設がなぜ無料にしているのかというと、施設内の回遊性を高めて館内の移動やショッピングを促したいからです。その発想を街全体に広げ、駐車券無料サービスのようにいつか電車を気軽に無料で乗れる世界の実現を目標にしています。」
と教えてくれました。
世界からも注目されるデジタルきっぷ
ビーマップの代表取締役を務める杉野文則さんに、デジタルきっぷの反響についてお話を伺いました。
左から、ビーマップ 事業推進本部 モビリティ・イノベーション事業部長の三谷卓哉さん、同社代表取締役の杉野文則さん
「海外では、私鉄というものがほぼなく、殆どが国営だったり公営の鉄道会社なんです。また、設備が古かったり改札機がないということも多く、無賃乗車なども横行していたり設備費用が膨大になってしまうということも課題です。また、アフリカのとある国では現金で色々とやりとりを行なっているのですが、運転手さんがお金を盗ってしまったり、といった問題も浮上しているんです。」
と解説。
そこで注目を集めたのがデジタルきっぷ。
QRコードを読み取るリーダーのみを導入すればよいので設備投資も抑えられ、私鉄の「街を盛り上げる」という考えがあまりないことから、日本発のこの考え方・活用方法に非常に興味を持ってもらえたそう。
「イノトランス2024では、多数あるブースの中で私たちのブースが他を圧倒するほど多くの方が立ち寄り話を聞いてくださいました。現在は、2日に1度程度の頻度で、世界中の鉄道会社などから問い合わせがあり、打ち合わせを行なっています。」
と、ベルリンで開催された「イノトランス2024」での反響が非常に大きかったことで、デジタルきっぷは現在世界中から注目を集めていると教えてくれました。
インタビュー当日も、夜間に日本とは地球の真反対にある南米の国・チリの企業と打ち合わせがあると語っていた杉野社長。
連日の問い合わせや打ち合わせの応対に追われている中で、その目はとても輝いているように筆者の目に映ったのが印象的でした。
駐車場無料サービスなどで、車で出かけた方がお得だと感じている方も多い中、ビーマップと南海電鉄は将来的に気軽に電車に乗って出かけられる世界を目指し、デジタルきっぷを用いた本サービスのさらなる普及に努めています。
11月〜12月頃には、なんばエリアの来訪促進を目的に、デジタルきっぷによる新サービスを活用した買い物キャンペーンも実施するそう。
世界的にも注目を集めるデジタルきっぷの今後の展開に、ぜひ注目してみてください。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です