船井電機の衝撃的な倒産が世間を騒がせている。負債総額は469億円とされているが、東証商工リサーチは実質的な負債を800億円だと報じている(「船井電機の実質負債800億円、多額の引当不足が露呈」)。船井電機は2021年5月に秀和システムホールディングスによるTOB(株式公開買付)によって非上場化され、一連の破綻劇はこの買収の中心的な人物である上田智一氏が計画的に仕掛けたものだとも噂されている。そうであれば、背任も視野に入る大問題だが、その真相は…。
3期連続で営業キャッシュフローがマイナス
船井電機の倒産に至るプロセスについては不透明な部分も多いが、買収からのプロセスを辿ると、かすかに見えてくるものもある。
会社の潮目が大きく変わったのは、2021年の秀和システムホールディングスによる買収であることは間違いない。
このTOBには3人の人物が深く関わっている。
秀和システムホールディングスの代表取締役であり、2021年7月より船井電機の社長となった上田智一氏。
船井電機の創業者・船井哲良氏の長男かつTOB前は筆頭株主だった、医師の船井哲雄氏。
そして、買収前に船井電機の顧問を務めていた、元NTTぷららの社長・板東浩二氏である。
よく知られている通り、船井電機はテレビ事業の不振が深刻だった。2012年3月期から2018年3月期まで連続で営業赤字を出していたほどだ。しかも、2016年3月期から3期連続で営業キャッシュフローがマイナスだった。
会社の業績が下降線を辿る中、精神的な支柱となっていた創業者・船井哲良氏が2017年7月にこの世を去って以降、34%もの株式を相続したのが船井哲雄氏だ。
しかし、船井哲雄氏は1978年3月に旭川医科大学を卒業し、旭川厚生病院に勤務するなど医師としての仕事に邁進しており、船井電機の経営からは距離をとってきた。
2014年4月には旭川十条病院の副院長に就任。現在は院長を務めている。
そうはいっても船井哲雄氏が会社の行く末を案じていたのは確かだ。相続が完了した翌月の2017年9月下旬から、会社を再成長する道を模索し始めていたのである。
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買付者への配慮か? TOB価格の半額以下で譲渡
船井哲雄氏は、創業者の長男として会社の業績を回復させ、再成長させる必要があるとは考えていた。
しかし、ビジネスの中でもとりわけ難易度の高い経営再建という大仕事は、経験を有する経営者に任せたほうが中期的な発展が望めるだろうという思いを強くしていく。
そこで当時、船井電機の第9位の大株主だった船井興産の専務取締役・黒宮彰浩氏を介して、複数の投資ファンドとの接触の機会を持ったのだ。
業績が悪化していたとはいえ、豊富なキャッシュを持つ船井電機クラスの買収であれば、並みいるPEファンドが諸手を挙げて提案へと向かったのは想像に難くない。
しかし、ファンドとの信頼関係を築くことはできなかったため、船井電機の顧問だった板東浩二氏に相談することとなった。
板東浩二氏といえば、債務超過だったジーアールホームネット(後のNTTぷらら)のV字回復を主導し、「ひかりTV」事業を立ち上げた名経営者。再建にはうってつけの人物というわけだ。
当時、板東氏は船井電機の顧問の他に、株式会社敬屋社中という経営支援を行なう会社の顧問も務めていた。敬屋社中の代表取締役社長こそ、上田智一氏である。
船井哲雄氏は、上田智一氏がM&Aにおける豊富な経験を持っており、業績改善や事業拡大の実績があったことから船井電機の再成長を託すこととなった。
驚くべきことに、船井哲雄氏は持株をTOB価格918円の半分以下である、403円で譲渡している。公開買付者の資金調達コスト低減のメリットが大きいスキームを模索していたことからも、よほどの信頼関係が構築されていたものと予想できる。
M&Aのプロ中のプロであるPEファンドの提案をことごとく却下していた船井哲雄氏が、それほどの配慮をしているのだ。