負債総額は800億円とも…船井電機「衝撃な破綻」に残る謎…一連の倒産劇の主導者は何者なのか?

船井電機の美容業界進出は本当に不自然なのか?

非上場化後の船井電機は、代表取締役会長兼社長・板東浩二氏、代表取締役・上田智一氏という新たな体制で再スタートを切った。

2021年3月期は液晶テレビを主軸とする映像機器が、売上全体の9割を占めていた。板東浩二氏は2021年8月に報道陣の取材に応じ、新規事業に力を入れて売上の半分程度まで高めるとする方針を語っている。

直近通期の映像機器事業の売上高は1割の減収であり、別事業に活路を見出だすという方針自体には納得感があった。

2023年4月、そうした新体制下で新規事業拡大を図る船井電機は全国で脱毛サロンを展開するミュゼプラチナムを買収している。主力事業であった薄型テレビ事業が伸び悩むなか、美容事業への参入。

船井電機のミュゼプラチナム買収に、不自然だとの声は多い。しかし、船井電機は2020年5月に歯科医師用の断層撮影装置メーカーのプレキシオンを12億円で買収している。

2017年からは電動ベッドの駆動部品や制御ソフトの開発を進め、寝具メーカーなどへ販売していた。つまり、液晶テレビからの脱却を図るため、健康機器や医療などへと活路を求めていたのだ。

ミュゼはサロンの運営も行なっているが、自宅で脱毛ができる美容機器や美顔器、シェーバーなどの販売も行なっている。

そう考えると、船井電機の経営再建の延長線上に健康と医療、美容機器業界への本格参入という意思決定があったとしても、決してずれているものだとは言えないのではないか。

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2023年3月末時点で221億円あった現金はどこへ…

2022年6月の定時株主総会で板東浩二代表取締役会長兼社長が退任。上田智一氏が代表取締役社長に昇格した。板東氏が代表を退任した理由は不明だが、しばらく船井電機の経営は安定していた様子が伺える。

2023年3月期の事業報告書にはこのように記載されている。

“金融機関との関係は引き続き良好であり、当社グループの当連結会計年度末現在の現金及び預金残高は221億96百万円となっております。当連結会計年度において23億63百万円の親会社株主に帰属する当期純利益を計上”

23億円の純利益を出し、2023年3月末時点では221億円もの現預金を有しているのだ。

しかし、2024年3月期の事業報告書では現預金、純利益、金融機関との関係は一切言及されていない。

そして2023年4月にミュゼプラチナシステムズ合同会社を買収し、2024年3月に同社の全株式を譲渡した事実が淡々と書かれている。

船井電機がミュゼの広告費の債務保証をしており、支払いの遅延にしびれを切らしたウェブ広告のサイバー・バズが船井電機株の仮差押えを申請。東京地裁がこれを認める決定を下した。そこから転がるように倒産へと至ったのは報じられている通りだ。

300億円もの資金が流出した形跡があるなど、衝撃の事実が次々と明るみになっているのにもかかわらず、一連の倒産劇の主導者が何者なのかはわかっていない。

ただし、上田智一氏が計画的にそれを行なっていたのかというと疑問の余地がある。

液晶テレビからの脱却を模索する中でたまたまミュゼプラチナムと出会い、巨額の広告費を肩代わりして株式が差し押さえられ、転がるように倒産へと至ったように見えなくもないからだ。

船井電機の一件で恐ろしいのは、一見、適正に見える経営判断が悲惨な末路へと至ることもありうるのではないかと思わせることだ。

間違いなく言えるのは、子会社ミュゼの広告費の不払いを見過ごすなどのコンプライアンス違反を犯すことになれば、一瞬で会社は倒れてしまうという事実である。適正なかじ取りができなかった経営陣の責任は重い。

計画的に倒産させたかどうかはともかくとして、会社が傾いた時期に会社のトップに立っていた上田智一氏は、原因究明のためにも説明責任を果たす義務があるだろう。

取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock